T博士のライ麦畑
千織
600字のミステリー
あのライ麦畑に近づいてはいけないよ。
昔々、あのライ麦畑の近くにT博士という科学者が住んでいた。
T博士は素晴らしい発明をたくさんしていたが、ミステリー好きとしても有名だった。
博士は徐々に自分でもミステリーを書くようになり、出来が良かったので、本屋でも売られるようになった。
科学的知識を背景にした、緻密なトリックとエログロ。
日頃の穏和な博士からは想像がつかない作品で、博士を知る人はみんな驚いていたね。
ある時から、博士の論文がオカルトじみていると批判され始めた。
それと同時期に、何人もの少女たちがあのライ麦畑に消えていった。
彼女たちがどこへ行ったはわからない。
その一方で、博士のミステリーのエログロは冴えに冴えていった。
まるで、目の前で少女たちの苦悶の表情を眺め、断末魔の叫びを聞いていたかのような、リアルな描写……。
ついに博士の作品は発禁になった。
僕は博士の編集担当だったんだが、仕事の付き合いが無くなってからも博士に可愛がってもらっていた。
だから博士は、臨終間際に原稿を全て僕にくれた。
少女の連れ去り方、目的別の拷問の仕方、異常快楽の世界、死体や証拠の隠滅の仕方、逮捕以降の法的な防御の仕方……博士の作品の全てが記されていた。
僕はそれを読んで、博士がどんな気持ちでこのライ麦畑を眺めていたかを想像するんだ。
ライ麦畑の向こうに行ったら、もう帰って来れない。
あのライ麦畑に近づいてはいけないよ。
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