第6話 追いかけて
目が覚めると私はお兄ちゃんになっていた。ベットの上には私独り私の元の身体は出て行ったきり帰ってこない。
「ハァ…」
とため息を吐くひっくい声のため息だ。
『あー兄ちゃん代わってよ…』なんて言ううんじゃなかった。
剣道は嫌いではない、何より好きでないとこんなに続けてないし…
何がいけなかったのかな、強いて言うなら夏休みに大会がある事だと思う。こちとら花の女子高生だぞ。
……
しょうもない思考しかできない自分に嫌気がさす。代わってよと言ったが入れ替わってよとは言ってない。
「それにしてもどこ行ったのかなぁ」
私は寝ていた体勢を崩しベッドに腰掛け、つぶやく。すると看護師さんが血相を変えて部屋に入ってきた。
「石谷智広さんのお兄さん…?よね!」
いいえ私はここですなんて言えないので煮え切らない返事をする。
「あ…はい」
看護師さんによると
「ここを出て行くところは見たの?」
私は縦に首を振る。
「なんで追いかけなかったの」
怒られてしまった…その瞬間私は幽体離脱してて何もできなかったんだけどなぁ。
「分かりました、探します」
そう言って私も病室から飛び出した。
きっと兄はあそこへいく、バカ兄貴は、私のお兄ちゃんはきっと戻る筈だ。大っきな歩幅で兄の足で私は元居た場所へ一直線に駆けだした。
ツツジの葉が太陽に照らされて青々と輝いている、あの角を曲がれば大通りいつも通るあの道。ツツジ並木に私が足を踏み入れたとき遠くに袴の少女が目に入る、きっと私だ、まぁ厳密に言えば今は私ではないけれど。
あれを見失わずに追いかけてさえいれば良い、追いついて目の前にすれば私は、私たちはきっと元に戻れる。そう信じて―—。
太陽にあてられて 望月朔菜 @suzumeiro
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