第7話 関羽と張飛

涿県たくけん


周倉・劉備が大金を稼いだ翌日の昼過ぎ。劉備の家にて。




「ペルソナ?」




日焼け肌の好青年・劉備が首をかしげる。




「そう。俺のペルソナ『疾風のヘルメス』は、無制限に高速の移動を可能にする」


「ハハハハハ、なんてこった。そんな才能を持つ人に初めて会ったよ」


「玄徳。あんたにもあるんだよ、ペルソナは」


「私にも?」




そう。劉備玄徳のペルソナは『麒麟きりん』。


制限時間の30秒の間(レベルがあがるほど時間は延びていく)、主人公補正の幸運が続く能力。使用限度は一日3回。


要するに≪30秒無敵状態≫という、初心者向けに設定された能力である。


主人公補正のチートキャラ。自分が劉備だったらカンタンにクリア出来たろうな。




ただし。




劉備、そして関羽・張飛がペルソナを使えるようになるのは、『桃園の誓い』の後に設定されている。


三国志のメインキャラであるため、ペルソナ覚醒の際は、独自のムービーシーンが用意されているのだ。






だから。




今はただの、大志を抱いた、無能力キャラというわけだ。




「あんたは近々、関羽と張飛という、一騎当千の実力をもつ、超強い男たちに出逢う」


「関羽と張飛」


「その二人と俺とあんた、四人が義兄弟の契りをかわしたとき、ペルソナは使えるようになる」


「そうか。周倉が言うなら信じよう。ちなみに、周倉の字(あざな)は何と言うんだ?」




字(あざな)。三国志を知らない人だとわかりにくいんだけど、要は通称というか、別名というか。親しい間柄であれば、この時代、みんなあざなで呼び合っていた。




ちなみに周倉の字は、元福だが。




まぁ、せっかくだし。




「瑛冶(あきや)」




本名(吉川瑛冶きっかわあきや)でオネシャス。




「そうか。改めて瑛冶、よろしく頼む」


「おう」


「では、瑛冶。一緒にその二人を探そう」


「いいのか?」


「一騎当千なんだろう?その二人を仲間に引き入れ、急ぎ義勇軍を結成しよう。何事も善は急げだ」




その通り!さっさと関羽、張飛と義兄弟になり、隠しクリア条件を達成だ!




俺は劉備と連れ立ち、涿県の酒場巡りを再開した。




**********************************




探索から5時間ほど経過。


日が沈みはじめ、辺りが夕焼け色に染まる頃。




「周そ、いや瑛冶、あれを見ろ」




5軒空振りし、6軒目の店内を見まわしていた劉備が、奥の座席を指さし、声をあげた。




そこにいたのは、美しい髭を生やした身の丈九尺ばかりの大男と、身長は八尺あまりと負けじと大柄な、豹のようなグリグリとした目ん玉をひんむく、虎髭の武将。




間違いない。関羽と張飛だ!!!


ついてる!!これで最速クリアだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




「すみませーん!!!!!!」


「ん?……誰だお前は?」




怪訝な顔をした関羽が、高圧的に聞いてきた。




「え?……あ、すみません。俺は周倉って言います。西涼の出で、今は義勇軍を結成しようと、あいつと一緒に仲間を集めてるんです」


「あいつ?」




俺の言葉を聞いた張飛が、劉備を見た。




「お!!!」




思わず声を出す張飛。それにつられるように、関羽も劉備を見て咄嗟に「おお!」と声を上げた。




「ずっと会いたかったんだよあんたに!!」




張飛が嬉しそうに劉備に近づいていく。




「私に?」




驚く劉備の手を、張飛が両手で包むように握る。




「漢の景帝のご子息、中山靖王・劉勝の末裔なんだろ?漢王朝の再建を夢見る男!!この村の奴等から話は聞いてるぜ!!!」




興奮気味に張飛はしゃべる。続いて関羽が言う。




「落ち着け翼徳よくとく。劉備殿が困っているではないか」


「ああ、悪い兄者、つい興奮しちまって」




劉備の手を放す張飛。






「挨拶が遅れて申し訳ない。俺は、美髯公(びぜんこう)・関羽。字は雲長」


「ビゼン?ああ、ヒゲのことですか?」


「さすが劉備殿、その通りです、はっはっはっ」


「俺は張飛。字は、翼徳。実は俺たちも黄巾の奴等の横暴には腹が立っててよ、ぶっ倒したいって思ってたところなんだ」


「なんと、貴方たちも?」


「ふぅーん」




俺は、音に出して、ふぅーんと言った。関羽がこちらを見たあと、無視して続けた。




「ええ。俺と翼徳は、義勇軍結成を夢見る貴方の話を聞いてから、ずっと貴方の力になりたいと思っていた。劉備殿がよければ、ぜひ、我等三人で、義兄弟の契りを交わしていただきたい!!」


「交わしていただきたい!」




関羽が頭を下げ、張飛が重ねるように頭を下げた。




ん?三人だ?




「待ってくれよ」




俺が口を挟む。




「そこの劉備、いや玄徳は、俺の義兄弟だ。義兄弟の契りを交わそうって言うなら、俺も混ぜてもらわなきゃ筋が通らない」


「なんだお前は」




高圧的な関羽。なんかヤな感じだな。




「だ・か・ら!俺は周倉!劉備の義兄弟で、義勇軍立ち上げようとしている男だよ!」


「兄者、どうするよ?」


「ふん。まぁ~……劉備殿の義兄弟なら仕方ない。ただし、お前は末弟、一番下だ」


「はぁ!?」




思わず声が裏返る俺。




「待ってください」




たまらず劉備が口を挟んだ。




「この周倉、私と義兄弟の契りを交わしたのは昨日のことですが、私は彼に全幅の信頼を置き、私にはない才能のある、非凡な人物と認識している。私があなたたちと義兄弟になるのは構わない。しかし、彼への敬意を欠くのならば、話は別だ」




ぴりついた空気が酒場じゅうに広がった。




いやいや劉備ぃ~!!!!嬉しくて抱きしめたくなっちゃったよお前~!流石仁徳の士だなおい!!!!


だけどもだ!!!関羽・張飛と義兄弟になるのは絶対断んなオメェ!!!!!




「ありがと玄徳!でも俺末弟でいいわ!」


「いやしかし!」


「義兄弟になろ、ペルソナ使お!」


「それはそうだが」


「こいつが良いって言ってんならいいじゃねえか、なぁ兄者?」


「うむ。劉備殿、我等四人、義兄弟の契りを交わしましょう」


「う~ん、……ならば、うん、わかったよ。そうしよう」


「こんなところじゃ、あれだしよ。東にずうっと進んだところに、桃の木がたくさん生えてるところあったろ、あそこで契りの盃を交わそうぜ」


「翼徳。お前にしては、粋な提案ではないか。いかがかな、劉備殿?」


「私はどこでも」


「こんな夜に桃園の誓い?」


「文句があるのか?よし。周倉、ここの酒と盃を樽で運んでくれ」




関羽が俺の肩に手を置いて、サラッと命令した。




「俺が?」


「末弟なんだから仕方ねえだろ。さ、劉備殿、俺たちは馬で行きましょう」




そう言うと張飛は、店の壁に立てかけてあったトゲのついた棍棒を手に取り、外へドシドシ歩いていく。


するとそれに続いて関羽も、長柄の矛をたずさえ、劉備を引っ張り、店を後にした。




……。




むかつくなあいつらああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!




……うし。俺に失礼な態度取ったこと、死ぬほど後悔させてやるぞ。




そう心で誓った俺は、先日話した顔見知りの店員に声をかけ、紙を渡した。




「それ、宜しくね」




店を出る。関羽張飛は、俺を待たずに劉備を連れて行ったようだ。




さて。








俺は「ペルソナ」と呟き、両足に翼を生やして、空振りした酒場の方へと加速した。


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自社制作三国志RPG異世界に転生した社員一同、隠しクリアで全章制覇→現世生き返りを目指す! ハチシゲヨシイエ @yosytomo

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