第6話 『疾風のヘルメス』
「さぁさぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい!今よりわたくし、馬より速い男・周倉と、人間には負けないと闘志を燃やす、鼻息荒いこのお馬さんたちとの、世にも稀なる競争がはじまりますよ!」
大勢の人だかりが出来ている。涿県(たくけん)じゅうの人が集まっているんじゃないかという盛況ぶりだ。
俺一人と馬が8頭並んでいる。今から何が始まるのかと言うと。
競馬だ。
参加費として、銭を(手持ちがない場合は絹布、穀物でもOK)徴収する。
ルールは簡単、俺+馬8頭で、誰が最初にゴールするかを当てる。ただそれだけ。
賞金は出した参加費の倍額払うと喧伝したため、裕福そうな身なりの商人も、面白半分で、大量の銭、布を賭ける。ちなみに、当てた者がたった一人の場合は、賞金総取りである。
「俺は一番にかけるぜ!」
「おらは五番だ!」
「わしは三番じゃ!」
「じゃあ俺も!」
時代が違っても、人間は賭け事が大好きな生き物だ。
貧乏な人間も、一攫千金を狙って賭けているのをちらほら見かけるのは、やや気が引ける。
いずれあんたらには平和をプレゼントしてやる。とりあえず、今はあんたたちの有り金、俺と劉備が全部いただくぜ!!!!!!!!
「私は、あの人間に、有り金全部を賭けます」
劉備が真剣な表情で言うと、あたりはしんと静まり、間もなくどっと笑いが起きた。
「あの男馬鹿だ!人間が馬に勝てるわけがねえだろ!!」
「賞金総取りに目がくらんだ狂人だぜあいつ!」
「よく見ろ、あいつほら吹き劉備だ!漢王朝の末裔だとか言ってるあの!」
民衆が劉備を指さしてあざ笑う。毅然とした態度で劉備は言い返す。
「私は彼が奇跡を起こすと信じる。彼が勝ち、私が賞金を手に入れた暁には、そのすべてを軍資金とし、黄巾の暴徒を打ち滅ぼす、義勇軍を結成するつもりです」
「義勇軍?」
「ほら吹き劉備がかよ!笑わせるぜ!はっはっはっはっ」
「奇跡を信じれないものに、奇跡は起こらない」
俺は、真顔でいろいろ言ってる劉備を見て、こいつ、結構悪いやつだなと思った。
悪いっていうより、ズルいの方が正しいか。
だって俺が勝つのわかった上で、めっちゃ良いこと言うじゃんどや顔で!口がうまいというか、自分をよく見せるのに長けてるっていうか。
うちのトリレガ、こんな詳細に登場人物の内面作ってたっけ?とちょっと引いた。
まぁいい。この計画を持ち込んだのは俺だ。
「ペルソナ」
小声で発動し、俺の両足にはヘルメスの翼が生えた。
――そういえば、伝令神・ヘルメスは、泥棒の神様でもあったな。
こりゃ、こずるいことするには、うってつけのペルソナだわ。
村人の一人の合図と共に、八頭の駿馬と、泥棒の神を
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結果?
もちろん俺が一位だ。仕組まれた奇跡です。
マジでみんなすみません。
直線1キロを往復で2キロ。
リアリティ重視で、加速は抑えめ。最初はビリっけつだったんだけど、戻ってくるとき、一頭ずつ追い抜いていき、ゴール直前で先頭の馬を追い抜き、見事逆転勝ち。
実を言うと、そのあともう一回やったんだ。
ゼーハーゼーハーわざと呼吸あらくして、疲れてますアピールして。次は負けますよって。
でもま、流石に俺に賭けるやつが数人出てきたからこれっきりにしといた。
――とにもかくにも大金が手に入った。
「本当に負けるかと思ってハラハラしましたよ!!」
全部が終わった後、劉備の家で祝杯をあげているのだが、最後の逆転勝ちの演出に、劉備は少しだけ文句をこぼした。
おいおい、俺を信じてるんじゃなかったんかい!とつっこみそうになったけど、すぐに劉備は、俺の右手を両手で掴んだ。
「ありがとう周倉。これで義勇軍を結成するための金が手に入った。これからもどうか、私と一緒に戦ってほしい」
「玄徳さん。それはいいんだが~、た・だ・の・仲・間・、としてじゃないよな?」
「え?はっはっはっはっはっ、もちろん、義・兄・弟・としてだ」
「良かった」
俺はもう片方の手も、がっしり劉備の手に添えた。
ピコンッ!
≪劉備と義兄弟になりました≫
脳内で機械的な音声が流れた。
――よっしゃ!!!!金で手に入れる信頼ってのもいやらしいけど!この際どうでもいい!!!劉備攻略達成だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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辺り一帯が真っ暗になる中、一軒の酒場のみ、明かりが灯り、騒がしくあった。
「ほぅ。馬より速い男に、奇跡を信じる幸運のむしろ売り、か」
美しく長い髯を蓄えた武人が、酒をぐいっと飲み干す。
そのような与太話に、心惹かれるのは、何故だろう。
「酒だ!!酒が足りねえ!!!樽ごと持ってこんかい!!!!!」
虎髭を生やした乱暴者の大男が店員を小突いた。すみませぇーんと逃げるように酒を取りに行く店員。
「益徳。無礼が過ぎるぞ、今晩のお前は、悪酔いのしすぎだ」
「兄者!俺は悔しいんだよ!涿県にそんな面白ぇ賭博があったなんてよ!この張飛さまがいねえ間に、ふざけやがって!羨ましいぞむしろ売り!!!!」
「益徳」
「兄者よぉ!明日そいつらに会いに行かねえか?!」
「……なんだと?」
席を立った美髯の武人は、虎髭の大男よりも更に大きく、その身の丈はおよそ九尺(2m)。
のちに神として祀られることになるその男。
名を、関羽と言う。
「……うむ。それは面白いな」
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