第29話 極光に輝く巨神。恐るべき暴力の化身。
イッセイの願いが届く少し前、【女王ウル=アルケディア】は嗤っていた。
「くっ!?そおおおおおぉ!!!数が多すぎなんだよおおお!!!」
誰も手が届かない昏き夜の世界で見上げる先に、『新たな王』に捧げるための一等星のように輝く極上の贄がいる。
いままで捧げた贄とは比べ物にならないソレを前に歓喜していた。
『あア、アあ、なんテ……ッ!素晴らシイ『星の輝キ』!尊イ『闘争』!!これナラ……コレだけノ素材を『王』が取り込メバ……ッ!アノ憎きシュラどもに届クかもしレナイッ!!!』
『星幽界の王』が王に至るために必要な物。
それは対象の体内に秘めたアストラル光と――――『闘争』で得た『力』。
星獣がアストラル光を喰らえばその体躯は成長していくが、それだけだ。それでは足りない。他を圧倒する『格』が。
『星幽界の王』はその異界で最強の存在でなくてはらない。
そのために必要なのは隔絶した特別な『力』。
『闘争』で得られる戦闘の経験。積み重ねた『
闘いの果てに相手から奪った『
そう……一定以上育った星獣は喰らった『
沢山の『力』を喰らい、奪い、混ぜ合わせることで『王の権能』へと昇華させる。【女王ウル=アルケディア】は混ぜ合わせる素材としてはマキナを見ていた。
「ま……だッ!まだああああああああ!!!!」
空間を隔てた先で必死に闘うマキナに女王は称賛を送る。
さらなる『闘争』で贄としての価値を高めることを期待して。
『いいゾ!!!モット、もっとダッ!お前ノ『闘争』ガ『王の力』にナル!もっと見セロ、お前ノ闘いヲ!!もっと高メロ、お前ノ輝きヲ!!!』
女王が
贄としての完成度を高めるためだ。
その目には闘うごとに増す、マキナの『心の光』が見える。
それは異形の怪物にしかわからない特有の感覚で、体内に秘めたアストラル光が減るのと反比例するように増える。強く輝くその光が。
『ハハハハハッ!!!これナラ間に合ウ!間抜ケなシュラどもを閉じ込メタ『楽園』ガ消えルまで、まだ時間がアル!そうスレバ――――
女王は罠にかけたシュラと呼ぶ者たちの顔を思い出し愉悦に浸り、これからの未来を語ろうとした――――が、その先を口にすることは出来なかった。
【女王ウル=アルケディア】に
全てを隔てた夜の世界に暴力的な『力』の気配が流れ込む。
『女王』のよく知る気配が。百年争った修羅たちの気配が。
口にできるのは『ありえナイ…………』と現実逃避の一言だけ。
歌が聞こえる。
▼
「え?…………なんで?」
いきなりの事態。
四方からくる怪物たちの猛攻をかろうじて凌いでいたマキナはボロボロになった『戦劇の英雄』を操る手を止めて驚いていた。
それは命を惜しまない怪物たちの襲撃が止まったこと。
【理想郷】の空間が揺らぎ、『星光』に満ちた気配が流れてきたこと。
その気配は怪物たちにとって本能的に抗えないもので、火に飛び込む蛾のようにこの世界から外に出ていったこと。
――――ではなく。
閉ざされた世界にずっと探していた少女の――――『アスラ』の歌が響いたことに驚いていたのだ。
その声を聞けた喜びを感じる前に意識に、世界に『声』が響く。
不快なノイズが走った声が。いや――――恐怖に満ちた悲鳴が。
『あ゛ア゛あ゛ア゛ア゛ア゛あ゛あ゛ア゛あ゛あ゛ァァァ!!!!』
それに呼応するように夜天の地面が形を変え、激しく動き出す。巨大すぎる腕も生えて巨人の手がマキナに迫る。
捕えるために。時間をかける暇はもうない。と言わんばかりに。
彼女は空中に足場を緋色の結晶で作り、宙に逃げる。
それでも夜天の地面と巨人の手はマキナを追いかける。必死に。
もうそこに人を嘲る余裕はなかった。
(なになに!?なにが起こってるの!?アスラの歌が聞こえたと思ったら、化物がいなくなって、悲鳴がして、今のこの状況…………なにがなんだかわかんないよ!)
そんなことを考えながら彼女はそれらの猛追を『戦劇の英雄』とともに難なく躱していた。動きが読みやすかったのだ。どれだけ強大で巨大でもわかりやすい動きしかしないから躱すのは容易かった。
絶対的な優位性を持つせいで戦闘を覚える気も、学ぶ気もない怠惰の『女王』。
再誕したばかりで戦闘経験がほとんどない、安全な場所の促成で育った『王』。
歴戦の稀人であるマキナが行動を誘導するのは容易かった。
女王や王は彼女に翻弄される。
いつまでも捕まらないことに焦った女王が全力を出そうとした。
その時――――
外からの爆音と轟音と――断末魔が。空間が揺らいだ【理想郷】に響く。
それも連続に、執拗に、鬱憤を晴らすように。
怪物の悲鳴と激怒の歌がミックスされて。
廃墟の異界が更地になってもおかしくない、耳を
その音が聞こえ始めてから先ほどまでの猛追は止まった。
腕は地面に引っ込み。夜天の地面は止まり――――表面が震えていた。
息を潜め脅威が過ぎ去るのを待っていた。怪物の王たる二柱が。
この場所なら安心だと、許可なきものは入れない絶対不可侵の領域だと、百年も暴力の化身が手を出せなかった聖域だと、女王は自分に言い聞かせるように。過去に受けた恐怖を思い出さないように。夜の世界の奥深くで震えていた。
だが――――
――――見つけました。
その言葉に女王の身が竦んだ。
女王は犯してはならないミスをした。
千載一遇の
ガオオオオオオオオオオォォン……………………!!!
【理想郷】を震わせる衝撃音。
空気が、地面が、空間が、震える。
それは空間に干渉した能力に由来するものだ。
女王はその現象が信じられなかった。
ガアアアアアアアアアアアアアァァァン……………………!!!
二撃目。さらに罅が広がる。
限界は近い。
『ナゼだナゼだナゼだナゼだナゼだナゼだナゼだ!!!ナンで、シュラどもが我ノ『楽園』に干渉デキるッ!?そもソモ閉ジ込めていたハズなのニなんで外に出てイルッ!?まだ、時間ハ――――マサかッ!?!?』
気づく。犯した過ちに。
閉じ込めていた『楽園』の空間が、星幽界の王が持つ権能で喰われたのだと。
空間干渉の『力』を最も渡してはいけない相手に渡してしまったのだと。
そして、気づかない。もうひとつの過ちに。
それは戯れで嬲った少年がきっかけになったのだと。
その程度の『力』では空間の牢獄に気づくことも叶わない、と侮りおもちゃにした少年がやったのだと。
彼が開けた
そのことを【女王ウル=アルケディア】は最期まで気づかないだろう。
三撃目――――特大の破砕音。
『新たな王』よりも巨大な白亜の巨腕が空間を突き破った。
さらに穴を広げんと、両手で空間の端を持ち引き裂いていく。
ガラスを割るような破壊音が続き、空間の破片が降り注ぐ。
「≪熱くなれ!
完全に穴が開いたことで、戦場の歌がはっきりと聞こえる。
少女の歌が。
そして――――はっきりと見える。
果てしなく巨大で極光に輝く白亜の巨神の顔面そばに浮く姿が。
それは、マキナがずっと探していた少女
『
百年の長い時を闘い続けた不撓不屈の修羅であり、英雄。
悲劇を覆す圧倒的希望の光――――『イクサバ・アスラ』がいた。
マキナは現実に理解が追いつかない中、それでも頬を伝う――――涙が。
アスラは一拍おいて大きく息を吸い、大気を震わせる声で叫ぶ。
――――知らない声も混じって。
「マキナーーー!!!助けにきましたよーーーーー!!!」
『クソ
それは隣の巨神から声が響いていた。
イクサバ・アスラは修羅の道をゆく~天上に届け、天下に轟け!世界を救う戦場の歌!修羅戦乱闘劇ここに開幕!~ ココカラ ハジメ @kk6290
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