Sun set

流行りの感染病で何も出来なかった前年とは違い、今年は早くも始業式が行われるらしい。とはいえまだクラスター感染の対策として全生徒が体育館に集まるなんてことはせず、新しい担任が校長の有難いお言葉を代読し、長々と話すところからあたしの2年目の春は始まる。

陽だまりの光を目一杯受けた風が感染防止対策の隙間から吹き込んで、長期休みの不摂生で荒れた汚肌を撫でた。

所謂マンモス校と呼ばれる我が校には本当に色々な子がいる。

出席番号一番のあの子は、背が低くて、つやつやなストレートボブで愛嬌のある可愛らしい子。1年生から男子サッカー部のマネージャーをしている。

私の後ろの席の子は肩甲骨まである髪の毛を毛先だけ軽く巻いていて、風が吹くたびサラサラとなびく。本来は校則上肩に髪がついたら髪を結ばなければいけないことになっているが、生徒指導の先生が教科担任で来るときのみ髪の毛を束ねている。

大人はこういう子を見たら「若気の至りだね」と言うのだろうか。それとも「校則も守れない馬鹿女」と批判されてしまうのだろうか。

SNSでフォロワー稼ぎのアカウントがいかにも動画と共に投稿しそうな内容だ。

そんなことなら切ってしまえばいいのに。顔がいいんだから、ボブにしたって変わらないでしょう。

そしてSNSの延長線上で知ったが、女子高校生の大半が熊手前髪、と揶揄されるらしい。何も知らない私は以前まで同じ前髪の様子をどこか気味悪く思っていた。全員同じ仮面をつけているようだったから。何よりも、この世界では稀に自分が何も知らないところでルールが決められているんだと感じた。後になって知ったが前髪のシースルーと触覚には小顔効果があるらしい。

「校則で個性を消すな!」と声を上げる割には、他人の何もしないという個性は面白いらしい。ストパが禁止されるのは許せないけれど他人の癖毛には人一倍敏感。

個性を無視することこそ個性の尊重になりうると、どうして誰も気づかないのだろう。

現にクラスのリーダー格女子は他クラスの女子の外見を貶すことに必死で、やはりそこには何年も外見に費やしたプライドがかかっているからだろうか。「ヘアアイロン使ったことないの?」だの「眉毛整えればいいのに!」だの、陰口かアドバイスかは抜きに他人からしたら余計なお世話だ。

ガタガタと椅子を引く音で現実に引き戻されて、ここでようやく先生が始業式と帰りのHRを兼ねて行っていたことを知った。

友人は出来るだろうか。クラスに馴染めるだろうか。このキラキラして同じ仮面をつけた子たちのように、私もその一員になることが出来るだろうか。

なるべく穏便に、目立たない様に。

今日は今年の抱負が無事決まった、そんな1日だった。


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マスクに浮いたファンデーション 深夜 @kamin06

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