第3話

 五分ほどで警察署に到着し、僕たちは中へと入った。すると、受付の椅子に座っていたおじいさんの警察官が僕たちをさらに奥へと案内した。

「塁から話は聞いているよ。家出してヤクザに絡まれてるところを助けてもらったんだってね。運がよかったね。少しの間ここにいてもいいよ。」

「何で知って...」

僕がそう言うや否や、赤髪の女は笑いながら言った。

「まあ、最初から大体こうなるだろうとは思ってたよ。あの時もし私の家に泊まるって言ったらどうしようかと思ったけど、案の定ある程度の危機管理能力はあったみたいだね。」

僕たちは奥の椅子に腰を掛けた。すると、おじいさんの警官が言った。

「じゃあ、自己紹介でもしますか。私の名前は研磨智。定年寸前だけど、まあ君たちのことは見届けられそうでよかったよ。」

研磨さんは立ち上がり、僕たちの肩を軽くたたき、お茶を沸かしに行った。

「それで、私が塁ね。2年前位にここに移動になったの。だけどこの町は治安が悪くてね。毎日忙しいんだよ。」

「すみません。せっかくの休日を奪ってしまって。」

勇人がそういうと、塁さんは笑いながら言った。

「大丈夫、家にいても暇だからね。」

そして最後に、金髪の男が言った。

「俺は、塁の友人で松原凪っていう名前。株投資家をやってて、最近ではもうこれが本業。よろしくね。」

 凪さんは見た目は少しチャラかったが、その割には優しそうな人だった。確か、車の中でも株のチャートを見ていた。本業が投資家なのだとしたら、目が離せないのであろう。そしてその後、僕たちも同じように自己紹介をした。もちろん家出の理由などまでは話さなかったが、皆妙に僕たちに対して寛容だった。ちなみに、塁さんによると今日は会議があったため何人かおらず、いつもはこのメンバーに加えて3人程の人がいるそうだ。そしてその後、研磨さんが立ててくれたお茶をたしなみ、僕たちは世間話をしていた。署内は意外と広く、建物自体は多少古臭かったが、どこかおしゃれさを感じるところがあった。

 そして、治安が悪いということもあり30分おき程度のペースで人が来た。その都度研磨さんや塁さんが対応していて、内容は主にひったくりやカツアゲなどだった。しかしそんな中、突如他とは違う人が来た。二人組の警察官、それもスーツ姿のだ。その時は研磨さんが対応していて、盗み聞きではあるが多少会話の内容が聞こえた。

「すみません。警視庁刑事部、捜査二課のものです。この辺りで行方不明者届の出されている少年の目撃証言があったそうなのですが、何かご存じないですか?」

突然の出来事に、僕たちは困惑した。もしかして、この人たちは僕たちを探しているのだろうか。そう思ったとき、僕はその男のうちの一人と目が合ってしまった。そして、しばらくの沈黙の後、男たちは顔を見合わせ、建物内へずかずかと入っていった。

「逃げよ...」

僕がそういったとき、既にこの部屋の扉は開かれていた。

「あなた、水舞直樹さんでよろしいですね。行方不明者届が出ているので、少し来てもらってもいいですか?」

そう言い、男たちは僕に近づいてきた。だが、行くつもりなど一切ない。そっと後ずさりを始め、すきを見て裏口の方へと走った。そして僕は、裏口の扉を開けた。

「逃げるつもりですか?」

そう聞こえたのは、裏口の外からだった。横を見ると、案の定スーツの男がいた。僕は足を止め、男たちに尋ねた。

「あなたたち、捜査二課って言ってましたよね?なぜそんな部署の方々が僕なんかを捕まえに来るんですか。それも三人で。」

すると、裏口の方の男がにやりと笑い、僕に言った。

「それは、君が一番わかっているんじゃないのかな。まあ話は後で聞くよ。とりあえず我々の署まで来てもらえるかな?」

僕は肩を縮め、勇人に目線を向けた。すると、勇人は小さく頷いた。そして次の瞬間、僕の前にいた警官が叫んだ。

「後ろ!避けろ!!」

 そして、僕の後ろにいた警官は、塁さんの鋭い蹴りによって地面へと叩きつけられた。塁さんは僕をよけて前進し、前にいた二人にアッパー攻撃をした。運よくみぞおちに当たったようで、二人はそのまま崩れ落ちるように倒れた。

「やっぱPCばっかりいじってるような二課は弱いね。なんでお前らがこんなところに来てるのかは知らないけど、流石に不自然だよ。それに、強制的に連れて行ったって解決するとは思えない。大の大人3人が子供一人のためにこんなところまできてこの様か。笑えてくるわ。」

塁さんはそう言い、僕達に手招きをした。そして僕達、もちろん塁さんたちも、また一つ立場を捨てることとなった。

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罪なき逃走者 水町咲希 @mizumati

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