第4話 すきな子

なにかを残さないと、私が生きていた証というか、なんていうんだろ…存在を忘れられちゃう、みたいな感じがするから、この紙を地球のどこかに隠してから死ぬことにしました。


誰かに見つかったら、捨てられちゃうかもしれない。

誰かに見つかったら、『忘れられる』っていう現象が発生して悲しいけど、そもそも誰にも見つけられなければ悲しくないから。

今も私のことを考えて、遺言を探しててくれるのかなぁ、とか、都合のいい妄想をできる余地が残っていた方が心は救われるって知ってるから。


何を書こうかなぁ。


私は小学校3年生の頃から、クラスメイトのほとんどからいじめを受けていました。物を隠されたり、ハブられたり、他にもいろいろ。


習字の時間にわざと墨汁を上履きにこぼされた次の日、茜ちゃんが一緒に洗ってくれたこともあったなぁ…なつかしい…


私は別に、いじめが苦痛じゃありませんでした。


私にはお母さんの親友の娘の茜ちゃんくらいしか友達がいなかったんですけど、茜ちゃんと遊んでいると自分が普通じゃないってことに気づくし、だからいじめられてるんだろうなぁって勘づいてもいました。


だけど普通になろうなんて思いませんでした。


だって、いじめてくるってことは、彼らは私に興味があるってことでしょ?


好きな子に意地悪しちゃうあれみたいな感じ。

みんな不器用なんだなぁって思ってました。


道徳の教科書に載ってたから自分が置かれている状況が「いじめ」ってことを認識してたけど、私は「いじめ」とも思ってなかったし。


遊びです。ただの。


相手は悪意があったかもしれないけど、私は楽しいばかりでした。


私は小さい頃、ぬいぐるみが大好きでした。

おままごとをしたり、お出かけにつれて行ったりするのももちろん好きなのですが、ぬいぐるみをバラバラにして好きなもの同士の一番好きな部分をくっつけて特別なぬいぐるみを作ることが格別に好きでした。


周りの大人からは「ぬいぐるみさんが痛いよって言ってるよ」とか、いっぱい言われました。


小学校高学年になって、暴力が始まったときにそんなぬいぐるみのことを思い出しました。


ぬいぐるみもこんな気持ちだったのかなぁ、って想像したら、自分もあのときのぬいぐるみの仲間入りを果たしたようでとても嬉しかったのを覚えています。


だから、私は、ずっとこのいじめが続けばいいと思っていました。


不安を感じながら小学校を卒業し、中学に入学しました。


中学でも、小学校時代のクラスメイトは相変わらずでした。

安心しました。


2学期が始まった頃のことです。


私は、違う小学校出身のクラスメイトにいじめられるようになりました。


私をいじめている彼らの姿が楽しそうに見えたから、自分たちも加わったのでしょう。


すると、不思議なことに、小学校の頃から私のことをいじめていた人たちは私から離れていきました。

代わりに新しくいじめてきた人たちが中心となって私のことをいじめるようになりました。


それから、もともと私をいじめていた人たちは人を虐げる愉悦なしでは生きていけないので私の代わりを探し始めました。


そして標的になったのは、同じクラスの吹野菜乃花ちゃんでした。


菜乃花ちゃんはごく普通のどこにでもいる女子中学生でした。

勉強も運動も平均くらい、顔も可愛かったけど、芸能人ほどじゃない。

身長も私と同じ平均くらい。


なんであの子なのかなぁ、って思いながら、いじめられる様子を見ていました。


菜乃花ちゃんは、いじめられるのがとても嫌そうでした。

泣いてはいなかったけれど、どんどん表情が暗くなっていきました。


だから私は、彼女を助けようと思いました。


けれどそれは逆効果で、私たちはもっといじめられるようになりました。


みんなに虐げられながら一緒にいるうちに、私は菜乃花ちゃんに恋をしてしまいました。


落ち着きがあって、強そうに見えて、実はとっても弱い姿がたまりませんでした。


いじめられてボロボロになっている姿を見ると、心臓がドキドキしました。


幸いにも、私たちは3年間同じクラスになりました。


一緒に教室を移動したり、ペアワークで組んだり、とっても嬉しかったなぁ…


とっても楽しい義務教育期間を過ごせました。


だからこそ、楽しいまま終わりにしたいと思った。


思い出がいっぱい詰まった中学校から、飛び降りることにしました。


じゃあ、これで日比谷碧の人生を終わりにします。


菜乃花ちゃん、男の子が好きだって言ってたから、来世は男の子になれるといいな。

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最終日 城名未宵 @koyoi_00

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