首なし騎士と一人ぼっちのお姫様

みこと。

全一話

北の古城には出るという


朽ちた城に 朽ちた鎧

首無し騎士のデュラハンが

歩き彷徨さまよい出るという


出逢ったものは無情にも

彼のつるぎに切り裂かれ

憐れあの世の仲間入り


近づくまいぞ 寄るまいぞ

古城の化け物 怖ければ


噂たなびき 国中に

首無し騎士が知られると


ある日 古城に 姫が来た


恋した騎士を失って

はるばる徒歩かちで ただひとり

騎士を探しにやってきた


空には月が かかる夜

首無し騎士が前に立つ

姫は即座に声あげた


「私が渡した飾り紐

やはりあなたは愛しい御方」


首無し騎士は大弱り

「この飾りは拾い物

人違いだ」というはずが

首がないので話せない


ぐいぐいぐいと抱き着く姫に

戸惑い 殺せず そのままに

姫は古城に居座った


月出る夜は庭歩き

花を見ては笑顔咲く


雨降る夜は部屋の中

姫は歌って刺繍刺す


帰れ帰れよ人の世に

騎士は姫をうながすも

言葉つむげず通じない


いつしか隣に眠る姫

首無し騎士は沈黙す



そんなある日 兵士たち

古城に向かってやってきた


ようやく姫の迎えかと

安堵したのも束の間で

兵士が姫を取り囲む


「お妃様の命令で 命奪いに来てやった

お前の騎士が殺されて

この城にいるというのはただの嘘

彼なら城でお妃に しっぽを振ってねんごろに

ねやの相手を務めてる


お前を守って死ぬ騎士は 誰もいないさ 価値もない」


あざけり笑う兵士たち

姫を囲んでおもむろに 手に持つ剣を振り上げた


ひらり降りるは漆黒の

夜より黒い鎧とマント

首無し騎士の冷たいつるぎ


あっという間に兵士たち

ぽんと首とび 死体へと

成り果て転がる血の海に



(泣くな 泣くな 小さな姫よ)


声なき代わりに差し出した

腕で姫を抱きとめた


首無し騎士の胸に伏せ

震えながらに打ち明ける姫


「分かっていたの本当は

あなたの無言を良いことに

甘えてしまってごめんなさい


私はあの日 あなたから

殺されるために来たのです


恋した騎士あいての裏切りと

継母けいぼの企み知っていて


"私の命は貴様ら・・・

ゆだねるものか"と決意して

それでも自刃が出来なくて

噂辿って首無しの

騎士様探して来たのです


軽蔑したでしょ 怒っていいの

さあ私もこの城の 血の一滴に加えてください」



見上げる姫の願いを前に

首無し騎士は躊躇ためらった



「昔私は横暴で 人の心がないゆえに

死して首無し怪物に 命この世に据え置きに


そんな身の上いまさらに

小さな姫が愛おしい

殺せるわけない 生かしたい


呪われた身ではあるけれど

護りたいのだ あなたのことを」



見つめることも 伝えることも

出来ない首無し騎士の声

不思議と姫は聞き取った



「人の心がないなんて

あなたは誰よりあたたかよ」


そっとつま先立ちをして

白いうなじの首伸ばし

姫は虚空に接吻キスをした



北の古城には出るという


美貌の騎士に可憐な姫


仲睦まじくすこやかに

非道な悪人狩るという


悪さをするな 近づくな


お妃様と間男の

騎士の首が晒された 



首無し騎士は"悪人"の

命を吸って 生前の

人の姿に戻ったらしい


そんな噂が 駆け巡る


静かな夜が 見せる夢路ゆめぢ

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首なし騎士と一人ぼっちのお姫様 みこと。 @miraca

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