激ヤバ☆モラ男の妄言集!

月代零

怖いのは、生きてる人間

 事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものです。そう、時として現実には、想像をはるかに凌駕する出来事が顕現いたします。

 本日は、僕が聞いた、とある男の妄言を紹介しましょう。

 題して「激ヤバ☆モラの妄言集」! はじまりはじまり~!


――ってか「モラ男」って何よ? と思いましたね、そこのアナタ。いい質問です。

 

 まず、モラハラ、というものをご存知でしょうか? モラルハラスメントの略称でございます。では、モラルハラスメントとは?

 ずばり、言葉や態度による、精神的な暴力のことでございます。「モラル」は倫理や道徳、「ハラスメント」は嫌がらせという意味ですので、倫理や道徳に反した嫌がらせ、といった意味合いでしょうか。


 ここではモラハラ気質の男性のことを、便宜上「モラ男」と呼ぶことにいたします。ああ、もちろん、モラハラを行う輩に、男女差や年齢差はございません。今回の相手が、たまたま男性だったというだけの話です。男性を差別する意図はございませんので、悪しからずご了承いただけますと幸いです。


……前置きが長くなってしまいましたね。それでは、本題に入りましょう。証言VTRの用意がございます。どうぞ!




『……始めは、優しい人だなって思ったんです。うち、親が仲悪くて……DVっていうんですか、そういうの見て育ったから、男の人って信用できなくて。恋愛とか結婚とか、別にいいかなって思ってたんですけど、彼は理解してくれて。彼もあんまり幸せな家庭じゃなったらしいから、そういうところも惹かれて。この人となら、幸せな家庭を築いていけるかなーって思ったんですよね』


――ほうほう、なるほど。けれど、段々違和感を覚え始めたと。


『……はい』


――それは、どのような?


『そうですね……。最初は「料理にC○○k D○を使うのは好きじゃない」って言われたことでしょうか』


――おや、それは典型的なアレじゃないですか。というか、伏字が伏字になっていない気がしますが。まあ、それは置いておきましょう。それから?


『……自称潔癖症だったんですけど。家にゴミを置いておくのが嫌だからって、ゴミ収集の日じゃないのに、ゴミを出したりとか』


――ふむふむ。


『電車のドアが閉まったのに、ドアから手を離さないで無理矢理開けさせたりして、なんかこいつおかしいなって思うことが時々あって』


――うーん……それは自己中心的というか、マナーやモラルが欠如しているのでは?


『そうですね。今となってはただのバカだったなって思います。あ、もう一つ、自称潔癖症エピソードがあって。「早く子供ほしい」って言うから、子供好きな優しい人なんだなーとか思ってたんですけど。でも、「潔癖症だからウンチのおむつ替えとかはできないから、そういうのは全部やってね♡それと、嫌われたくないから躾とかも全部そっちでやってね♡それで、〝ママ怖―い。パパは優しい〞って言ってもらうんだ♡」って言ったことがあって』


――それは……。それを言って結婚してもらえると思うんですかねえ。でも、それを言われた時、アナタはどう思ったんです?


『……変なこと言うなあくらいは思ったと思うんですけど。軽く流しちゃったんですかね。わたしもバカだったなって思いますけど。それから……』


――まだあるんですか。……ああ、吐き出したいんですね、どうぞどうぞ。


『仕事の書類書くの手伝えって言われて。断ったら「愛がない」とか言われたんです。おかしくないですか?』


――それはおかしいですね。社外の無関係な人間に、自分の仕事を手伝えなどと。コンプライアンスとか、守秘義務とかありますしねえ。言うことを聞かないと「愛がない」などと言い、こちらに罪悪感を植え付けようとする。これもモラハラの手段の一つと言えるでしょう。


『断ったりすると「愛がない」って言われることは結構ありましたね。今はふざけんじゃねえって言い返しますけど、当時は気が弱かったというか……』


――モラハラを行う人間は、御しやすい相手を見分ける嗅覚のようなものを備えているんですかねえ。優しいことを言って近付いて、結婚した後に豹変する、という話はよく聞きます。


『そうですね。自分の家族と上手くいってないっていうのも本当だったのか疑わしいです。当時彼は一人暮らしで、実家は隣の市だったんですけど、ちょくちょく実家に顔を出してましたし』


――なるほど。それで、別れようと決意した決定的な出来事は、何かあったのですか?


『……蕁麻疹が出たことがあって。こう、太ももから足首あたりにかけてばーっと。その時に、「うわwキモwww」って言われたんです。ありえなくないですか?』


――それはそれは……。もはやモラハラというより、ただの嫌な奴では……?


『やっぱそうですよね! でも、なかなか別れる決心がつかなくて……。どうしてでしょうね。自分でも嫌になります。そうこうしているうちに、彼の浮気が発覚して』


――おやおや。修羅場というやつですか。


『早朝……まだ始発電車も動いてないような時間でした。寝てたんですけど、電話の着信があって起こされて。見たら彼――いや、奴からだったから出たら、知らない女で。「あなた、彼の何なの」とか言われて』


――それはある意味ホラー……。


『それはこっちの台詞だって話ですよ。で、奴は「ただの女友達だから浮気じゃない」とかほざきやがったんですよ!』


――それも浮気する人間の常套句ですねえ。


『もう別れたからいいんですけどね。一発ぶん殴ってやればよかったと思いますよ。最後まで強く出られなかったことが、心残りと言えば心残りですね。まあ、奴が間違って結婚して子供なんか作ってないことを祈りますよ。相手も子供も不幸になる未来しか見えませんから』


――ありがとうございました。




 以上で、証言VTRを終わります。

 いやあ、世の中には、度し難い人間というのは存在するものなのですねえ。案外、アナタの近くにもいるのかもしれません。善良な人間を装いながら。


 そんな人間に遭遇したらどうするか? 奴らは簡単に本性を見せたりはしないでしょう。しかし、いくら表面を繕っても、言葉や行動の端々に、本性は現れます。違和感を見逃さないことです。


 現実に危害を加えることができるのは、あるかわからない怪異などではございません。一番恐ろしいのは、生きている人間なのです――。



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