最終話 勝てずとも負けない事が武術なり
右腕をもぎ取られたアンドロイドは素早く間合いを詰めて左手でストレートを放った。
そのパンチを側方に回り込み小朱は棍で肩を叩く。
肩関節から外れた腕が武館の床に落下し金属音が響いた。
アンドロイドはアタッチメントのように腕を肩関節にはめた。
なんのダメージもないのかと私は肩を落とした。
酔拳螳螂門の入門型は小甘に教えてある。
瓢箪を持つ手をイメージして攻撃する技は習得的できているはずだ。
「小朱、白酒じゃ!飲んで強くなれ」
と私はミネラルウォーターの入った瓢箪を投げた。
小朱はそれを受け取り一気に飲んだ。
小朱の棍捌きの機敏性は増してアンドロイドの攻撃は一切当たらないようになった。
「この器に入っている液体を飲むと強くなる」
と察知したアンドロイドに本物の白酒が入った瓢箪を私は投げつけた。
飲み干すと両膝を床に付き「うぉーうっうっ」と嗚咽するアンドロイド。
声が出るとは意外だった。
「アンドロイドは泣き上戸か?」
と私は思った。
機械にも濃度70%の白酒はきついようだ。
「老師!白酒を異物と感じたようです」
と張飛羽館長が私に言った。
「喋れるようならアンドロイドと戦わんかい!」
と私は一喝した。
「あの機械の恐ろしさは設計に関わった私としてはとても奴にはなわないと十分わかっていますので手出しできません」
「情けないのう。反省できんのかあんたは」
「反省ができないからこんな事になったのだと思います」
「反省できない輩に反省しろとはもう言わん。しかしどうして泣いておるんじゃ奴は」
「はい、白酒を異物と感じて頭部に装着された人工知能が炎症、すなわちスパークしてそれを消火しようと全身の水分が目から流れ出しているものだと思われます」
「そこまで人間に近く設定されておるのか」
「そうです」
「本当に泣き上戸の人間のようじゃな」
「はい、全身全霊をかけて作りましたので」
「馬鹿もん!自慢はもうええ」
とふとアンドロイドを見るとうつ伏せに倒れてさっきまで格闘していたとは思えない姿で横たわっている。
「頭部に大量の涙が充満し漏電を起こし人工知能が機能停止したと思われます」
「解説はもうええ。こいつを連れて早く出ていけ!」
と私は張館長を一喝した。
張館長は慌ててアンドロイドおびき寄せに使われた満身創痍の兵士二人に指示して荷物のように運ばせた。
「館長、忘れ物じゃ」
「ヒッ!老師まだ何かありましたか?」
「アンドロイドを始末してくださりありがとうございましたと言うのを忘れとるぞ」
「ありがとうございました」
と早口で言うと館長と二人の兵士はほうほうの体で逃げ去っていった。
「別にわしらが始末した訳では無いがああいう感謝のできない人間には形だけでも感謝させとかんといかんからな」
と私は小朱、小甘に言った。
「私達の武術ではなく白酒で機能停止したのですからね」
と小甘は答える。
「別に勝たんでええんじゃ。負けなければいい…それが武術の教えじゃよ」
「わかりました」
と二人の青年は声を合わせて言った。
アンドロイドの暴走は終わった。
世の中を恐怖に落とし入れた人工知能は弱点を露呈して鉄くずとなった。
後に、この功績が世の中に広まり私の元に全国から弟子志願者が押し寄せた。
そして小朱が三代目館⾧、小甘が副館長となった。
厳しいけれど優しく指導する小朱と優しいけれど厳しく指導する小甘、そして孫弟子達を目を細め見守る好々爺となった私である。
アンドロイドは泣き上戸 @J0hnLee
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