第23話

 私は、父を連れて隣の部屋に行くと、そっとタツヤを起こした。

「タツヤ、タツヤ」

「ん、うん……お姉ちゃん? どうしたの?」

 ベッドに起き上がり寝ぼけ眼を擦る。

 私の後ろに佇む父に気が付くと、目を見開いて一瞬固まったが、タツヤの顔は明るくなった。

「お父さん! お父さんなの? いつ戻って来たの? 僕、ずっと会いたかったんだよ」

 父は、悲しそうな顔をして、静かに首を振って見せた。

『ごめんね、タツヤ。戻った訳じゃないんだ。残念だけど、もう戻れない。だけど、お父さんは、いつでもお前たちの側に居るよ。それだけを伝えたかったんだ』

 そう言うと父は消えた。家は静寂を保っている。

 私は泣いているタツヤを抱き締め、宥めて寝かし付けた。


 父の語ったことを考え、中々眠れなかった。朝起きるのが辛かったけれど、私とタツヤはいつも通り登校した。

 夜勤だという母は「夕方出勤する」と家に残り、私達を送り出した。


 ――何故だか分からないけど、今日は家が静かだ。あの人は、諦めたのかしら。それとも、何処かへ行ってしまったの? とにかく、良かったわ。このところ会えなかったから、久し振りに、彼に会いに行こうかな。今後のことも相談しなくては――



 夕方、帰宅した私とタツヤは、玄関ホールにいる。長年こうしてに出掛ける母を見送って来た。

「行ってらっしゃい」

「行ってきまーす!」

 母が、いそいそと出掛けようとすると、大きく家が鳴った。


 パシッ!

 パキーンッ!


「あ、お父さんだ!」

 タツヤは、嬉しそうに目を輝かせた。

「えっ、何言っているの?」

 靴を履こうとした母は足を止める。

「だって、お父さんが、其処に」

 振り返った母は、タツヤの指差す先を見た。

 玄関から真直ぐの廊下、奥の薄暗がりに、霊体の父が立っていた。母に向けて、恐ろしい顔でニタリと笑う。

『た・だ・い・ま』

「……っ!」

 母は息を呑んだ。

 慄く指は、恐怖に歪んだ顔に食い込み硬直する。

 母の絶叫が響き渡った。

「き、きゃあああああああああああーー!!」




 私の家は、今日も騒がしい。












 

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騒がしい家 時輪めぐる @kanariesku

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