幸せな痛み
九戸政景
本文
「なんだかごめんね、いきなり来てもらって」
「いいよ、このくらい。ゆっくり休んでて」
ある日の早朝、月野
「いきなりだったからビックリはしたけどな。二日目の痛みでだいぶキツいって連絡が来たわけだし」
「うん……ちょっと甘く見てたかも。こんなに痛いのが一度に起こるなんて思ってなかったから、鎮痛剤も切らしてたし」
「一応、俺の家にあったのは持ってきたからそれを飲んでみて。他にも対策は調べてみたからさ」
「対策?」
「うん、少し待っててくれ」
政文はキッチンに向かうと、ケトルでお湯を沸かし始めた。そして沸いた頃、火を止めてから政文は持ってきていたバッグからカモミールティーの箱を取り出した。
「カモミールティー?」
「うん。調べてみたんだけど、この手の痛みにはアロマテラピーも効果があるみたいで、他にもラベンダーやゼラニウムもいいらしい。中でもカモミールは痛み全般を緩和して、鎮静作用で眠りやすくもしてくれるんだってさ。ホットだから体も温めてくれるしな」
「なるほど……」
「という事で……はい、どうぞ」
少し身体を起こした美空にティーカップに注いだカモミールティーを政文が渡すと、美空はカップを受け取ってから息を吹き掛けて少し冷ましながら飲んだ。
「……美味しい。あまり飲んだ事無かったけど、思ったよりも美味しいんだね」
「ハーブティーの中でも有名な物ではあるしな。後は……少しツボにも頼るか」
「ツボ?」
「これも調べた情報なんだけど、四つくらい痛みに効くツボがあるみたいなんだ。そのためにちょっとティーカップを預かるな」
「あ、うん」
美空からティーカップを受け取って近くにあったテーブルに置くと、政文は美空のヘソの下辺りに触れ、少し力を込めて押した。
「んっ……」
「ここ、
「つ、ツボを押される機会があまり無いから変な声出ちゃった」
「まあ仕方ないよ。後は手のとこの
ある程度の力で政文がツボを押すと、美空の表情は和らいだ物になり、その内に美空はうとうとし始めた。
「あ……ごめん、少し眠くなってきたかも」
「色々効いてきたかな。痛みはどう?」
「うん……さっきよりは平気」
「そっか。この痛みをわかってあげられないのがだいぶ辛いな」
「んーん、理解してくれようとするだけで嬉しいよ。因みに、前に聞いた感じだと、生理痛で失神、出産時の痛みで死んじゃうくらい男性って痛みに脆いみたいだよ」
「それだけの痛みを感じながら生きてるわけだからな。美空達は本当にスゴいよ、尊敬する」
「えへへ……ありがと」
美空は嬉しそうに笑うと、やがてあくびをし始めた。
「ごめんね、そろそろ限界かも……」
「うん、ゆっくり寝ててくれ。何があってもいいようにそばにいるし、後で美空が好きな甘酒も買いにいこう。甘酒も効果はあるみたいだし、適度な運動も効くようだからさ」
「うん……そうする。ね、政文……」
「ん、なんだ?」
「痛いのにね、なんだか幸せなんだ……」
「……そっか。俺も幸せだよ、大切な恋人のために頑張れてるからさ」
「ん……それじゃあおやすみ、政文」
「おやすみ、美空」
そして政文がソファーに持たれながら優しく微笑む中、美空は静かに眠り始めた。幸せな痛みを感じながら。
幸せな痛み 九戸政景 @2012712
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