ご指名先は可愛い娘に(後編)

「なんの話……かな?」


 出来るだけ動揺を隠すように平静を保ちながら。私はどうにか声を振り絞り、愛娘の問いかけに答えてみる。


「とぼけちゃって。じゃあ聞くけどさ……母さんがこのデリヘルを予約した時に……お店の人に指定した条件って何だったっけ?」

「…………」

「えーっと、なになに?『十八歳くらいの子で、身長は165㎝くらい。バストはBでスラッとしたボーイッシュな感じ。性格は一見ドライでクールそうだけど、その実とっても気遣い上手なタチの子をお願いします』——だったっけ。初めての風俗で随分とまあ、具体的に指名したんだね母さん」

「…………そうね」


 淡々と自分が指名した内容を愛娘に声を出して読まれてしまい、恥ずかしくてシにたくなる。ホントに……私は何故、あんなに詳細に指名をしたんだ……


「さて。そんな指名を受けて、店長に選び抜かれたのが私だったんだけど。……これさ、母さん」

「…………う、うん」

「ぶっちゃけさ——まんま、私の事だよね?」

「…………そうかしら。流石にちょっと、自意識過剰じゃない?」


 冷や汗がだらだらと流れ出て、心臓はバクバク音が聞こえそう。軽いパニックで目眩がするし耳鳴りまで聞こえてくる。そんな状況下でも……この想いだけは知られるわけにはいかない。絶対に。

 自分の性癖をカミングアウトした時とはわけが違う。どうにか母親としての顔を貼り付けながら、私は必死の思いでそう言ってみるんだけど……


「母さん。私、さっき言ったでしょ。隠していてもなんとなくわかるもんだよって。……今まで気づいていないとでも思った?母さんが私を見る時の視線を。その熱い視線に、私が気づいていないとでも?」


 何かを確信しているかのように。朱美は私への追求をやめることはない。挑発するように舌舐めずりしながら、わざと着ている服を着崩して……私に迫る。


「物心ついた時は流石にただの娘として見てたけど。……私が、女の子じゃなくて。女になりつつある時から……母さんの視線が少しずつ変わっていったよね」


 ……やめて。


「小学校、中学校卒業してくらいだっけ?……私に耳かきしてくれた時。私の髪を梳いてくれた時。……私と一緒にお風呂に入った時。母親の顔してなかったよね。えっろい顔して私を熱視線で見てたよね」


 …………やめて。


「……私の事、世界で一番愛しているって言ってくれたよね。何よりも誰よりも愛しているって。それってさ…………本当に、母親として、だけの気持ち?」

「やめてッ!!!」


 耐えきれず。とうとう私は叫んでしまう。叫ぶと言うことが、肯定に繋がると……自白しているものだとわかっていながら……それ以上はもう聞きたくなくて。娘の口から言わせたくなくて…………我慢できずに叫んでしまう。

 そんな私をなんとも言えない表情で。朱美はふぅっとため息を吐いてから続ける。


「……やっぱり。そういう目で、私の事を見てたんだね。娘として以上に……


 とうとうバレてしまった私の気持ち。私の本性。今この時だけは、聡すぎる娘が恨めしく思えてしまう。


 そもそもどうしてピンポイントに、朱美が指名されたのか?そりゃそうだろう……私が、そういう指名をしてしまったからだ。

 どうしてお前は女の子専門デリヘルで、朱美に似た人を指名した?決まってる……実の娘に手を出さぬように。少しでも似ている相手で欲求不満を解消したかったからだ。

 ああ、そうとも。私は……娘に欲情してしまっている。娘に恋慕を抱き、娘を良くない目で見てしまっているんだ……


 単純に同性愛者というだけなら、まだ救いはあった。ただそれだけなら、もしかしたら……もっと早くに朱美に自分がそうだと打ち明けることも出来たかもしれない。

 それでも出来なかったのは…………怖かったから。朱美に否定されることも怖かった。朱美に嫌われることも怖かった。……そして、何よりも私は……勢い余って朱美に手を出しそうになることが……私はひたすらに、怖かったんだ……


「……ごめん、なさい……お察しの……通りよ。私……貴女の母親のくせに。貴女を愛してしまっている……一人の女として。朱美……貴女に恋をしてしまっているわ……」


 もはや言い逃れなどできない。言い逃れする気力もない。力なくぺたんとその場に崩れ落ちた私は……やけになったように、わざわざ言う必要もない最低最悪の気持ちを愛娘に告白していた。


「自分自身、気づいていないフリをしていたわ……そんなはずないって。人肌恋しく思っているだけだって。ただの欲求不満なだけだって。身近な人間に甘えたくなってるだけだって……何度も何度も自分自身に言い聞かせたわ」

「……でも、違ったんだ?」

「……貴女は一日ごとに、成長していく。どんどん綺麗になっていって。体つきも丸みを帯びて女の子から女性に変わっていって……その度に、凄くドキドキしたわ。ずっと魅入られていた……勿論外見だけじゃない。私が辛い時、寂しい時、苦しい時に……朱美はいつだって私に寄り添ってくれて……」


 年を追うごとに、逞しく成長していく娘……私の中で朱美は……保護すべき大切な存在から、頼りになる存在に。そして……


『私は父親と違って、母さんを寂しがらせたりはしないから』

『私が母さんを幸せにするって約束する』

『私も誰よりも母さんの事が大好きよ』


 結婚させられてから、ずっと忘れていた……忘れようとしていたドキドキを思い出させてくれる素敵な存在に。いつの間にかなってしまっていたんだ……


「は、ははは……気持ち悪いよね……実の娘に恋慕する母親なんて。血の繋がった実の娘に、性的興奮を抱くなんて……最悪だよね……まんま虐待じゃないの、こんなのってさ……」


 自分の中に潜む醜い欲望に、身勝手でおぞましい最大の禁忌を抱いた自身の心に嫌悪感を抱く。……いつからだ?いつから私は……これほどまで狂ってしまったんだ……?


「……ごめんなさい、朱美。こんな話を聞かせる羽目になって。……こんな気持ち悪い母親でごめんなさい…………だ、大丈夫……私、絶対……朱美に手は出さないから……朱美が望むなら、二度と貴女の目の前に現れないって約束するから……貴女の言うことなら、なんでも聞くから……」

「……言うことなんでも聞く、ね」


 今更母親面なんてしても遅いし、こんな私にそのような資格はない。けれどせめて朱美が少しでも安心してくれるように……母親失格だけど、少しでもその責任を果たすために。私は震える声で朱美にそう告げる。

 私のそんな一言に、朱美は静かに近づいて……


「二言はない?母さん、私の言うことならなんでも聞くの?」

「……聞く。勿論、私に出来る範囲の事しか出来ないだろうけど……出来ることなら、なんでも言うこと聞くわ」

「……そう、それは良かった。なら今すぐ目を閉じて」

「う、うん……」

「目を瞑ったままでお願いね。私が良いと言うまでは……開けちゃダメだから」


 言われたとおり目を閉じる。……もしかして、殴られるのかな?殴ってすっきりするならいくらでも殴って貰って良いんだけど……下手に殴って朱美が怪我しちゃったりでもしたらやだなぁ……

 なんて考えながら、飛んでくる拳から与えられる痛みに耐えようと歯を食いしばる私。


「それじゃあ母さん」


 そんな私を前にして……朱美は。


「抵抗しちゃ、ダメだからね……」

「(…………え?)」


 何か柔らかいものを、私の唇に当ててきた。それが一体何なのか、私はしばらくわからなかった。わけもわからないままただただ困惑する私をよそに。朱美は何度も何度もそれを当て続ける。最初は軽く、数秒くっつけるだけだった。けれど回数を重ねる内に……くっつける時間は長くなっていき……

 しばらくそれが続いたお陰で、それがなんなのかなんとなく感触がつかめてきた。ふわふわしてて、でも弾力もあって。熱も感じられて、湿り気も少し帯びていて……


「……ッ!?あ、朱美……!?な、なんか……お母さんの勘違いだったら良いんだけど……貴女、今とんでもないことをしているんじゃ——」


 その正体に、鈍い私もようやく気づきかけた……そのタイミングで。私の言葉を遮って、口の中にぬるりとしたものが侵入してきた。


「ん、ぐぅ……ィッ!?」


 口腔内を何かがのたうち回るように、蠢き這いずる。舌も歯も歯茎も頬の内側も、くすぐられて掻き回されて。

 ……これは、本気でマズい。慌てて目を開け、そしてその侵入者を追い出そうと舌で押し返そうとするけれど。


「見ちゃダメ。それに……抵抗しちゃダメって言ったでしょう?」

「……ぅ」

「さ、もう一度。母さん……お口、開けて……」


 朱美に手で目隠しされて。耳元でそんな事を囁かれては抵抗のしようがない。言われたようにおずおずと口を開けると……またも侵入者が私のお口を犯しはじめる。

 今回は、さっきよりも遠慮なしに激しく。にちゅにちゅくちゅくちゅとやらしい水音と共にぬめりを帯びたものが擦りついて、絡みついて——


「~~~~~ッ!!!」

「…………は、ぁ……」


 一体どれだけ続いたのか。数秒だったかもしれないけど……私に取っては永遠とも思える時間が過ぎ。息継ぎが出来ず酸欠状態になりかけた頃。ようやく朱美は私を解放してくれた。

 私の目を覆っていた手を離し、そしてゆっくり私から身を引く。脳に酸素がまわっていない呆けた頭で朧気に目の前の光景を見てみると。私の舌と、朱美の舌の間を……銀の橋が架かっていて。


「……ご馳走様、母さん」

「ど……して……?」


 頬をほんのりピンクに染めて。これ以上ないくらいに幸せそうにうっとりした顔で……その自分と私の唾液で出来た橋を舐め取る朱美。私はそんな朱美を見ながら、わけもわからないまま疑問を口にするしか出来なかった。

 ……どういうこと……?なんで、私……朱美にキス……されたの……?嫌悪感を抱かれるでもなく。蔑まれるでもなく。まして殴られるでもなく……どうして朱美は……


「……ふふ。ごめん母さん。そう言えば私も、まだ母さんの最初の質問に答えていなかったよね」

「最初の……質問……?」

「どうして私が、女の子専門デリヘルで働いているのかってやつ」


 そう言って朱美は困惑する私を引き寄せて。


「詳しい説明は後でしてあげるけど。……私も母さんと一緒だよ。蛙の子は蛙だってって話」

「何を、言って……?」

「そうだね、簡潔に言えばね——母さんと私は両思いだったって事。私も、母さんが好き。大好き。一人の娘としてだけじゃない…………一人の女として。朱音母さん、貴女の事が大好きよ。愛しているわ」

「…………!?」


 愛の言葉を囁きながら押し倒し。想定外のことが起こりすぎてキャパオーバーを起こし、ただただ呆然としている私に再び私の唇に……顔に……全身に。キスの雨を降らせ——


「って、ちょ……ちょちょちょ……ちょっとぉ!?な、何してんの!?何しようとしてるの朱美!?何故キスする、何故脱ぐ、何故脱がす……!?」

「え?いやだって。私と母さん両思いだってわかった事だし……畳みかけるなら今かなって。場所も場所だからこのままイけるとこまでイこうかなって。それにホラ。一応、私……——それも……デリヘル嬢としてここに来てるわけだし。母さんを満足させなきゃいけないし?」

「なにそれ全然意味がわかりません…………なんて?今日限りの……専属契約って何の話……!?……いや、待って。待ちなさい。それ以上に…………りょ、両思いって…………両思い!?両思いって事はつまり…………両思いって事!?」←混乱中

「……ふふ。母さん、動揺しすぎ。……そうだよー。両思いだよー。母さんと一緒で私も……物心ついた時からずっと。母さんの事、大好きだったんだよー。勿論、一人の女としてね」

「は、はぁ!?あ、朱美も……私の事が…………い、いやいやいや……!そんな、バカな……!?そ、そんな私にだけ都合の良い展開があるわけ——って、朱美!?だから、脱がさないでってば!?」

「脱がさなきゃ始まんないでしょ。……はい母さん、抵抗しない。ばんざーい♪」

「や、やめなさい……落ち着きなさい……わ、私たちは……血を分けた母と娘で……こ、これ以上先の事は性的虐待にも繋がって……」

「大丈夫だいじょーぶ。母さんから手を出したら虐待扱いだろうけど。私から手を出すんだし問題ないって」

「そういう、問題じゃな——あ、嘘やめて……な、何を……」

「だから大丈夫。全部私に委ねなよ母さん。絶対に、気持ちよくしてあげるから」

「……あっ、あっあっ…………ひぁああああああああん!!??」


 そして……本性を現した朱美に…………その。それはもう凄いこと、いっぱいされました。……具体的には言えないけれど、この場に相応しい事を……それはもう……全身全霊で、されましたとさ……

 何度目かの絶頂を与えられ、体験したことのない快楽の海に溺れさせられ……失神する途中で、私は最後までわからず心の中で朱美に問いかけた。


 ねえ本当に、一体、何が……どうなってるのよ朱美……!?



 ◇ ◇ ◇



 ~Side 朱美~



 恋い焦がれ続けてきた人にやっと想いを伝えられて。やっと両思いになれて。その嬉しさでちょっとテンション上がりすぎていた私は……もう絶対逃がさん、倫理とか道徳とか法律とか。母さんがうだうだと何か言う前に先手を打ってやる……!って気持ちになっちゃって。

 つい体に物を言わせて……少し張り切り過ぎちゃって。


「すー……すー……」

「ごめん母さん……流石にちょっと調子乗りすぎたね」


 結果、母さんが失神するまで果てさせてしまった。いやぁ、『女同士でやると終わりがない』って話は聞いたことあるけど……マジだったわコレ。永遠に出来そうだったし。危うく折角結ばれたってのに、母さんを昇天させてしまうところだわ。


「お陰で、話さなきゃいけない事。話そびれちゃったわ。ほんとごめんね母さん。わけわからなかったよね。次起きたら諸々の事、ちゃんと全部話すよ」


 私の隣で可愛らしい寝顔を見せながら寝息を立てる母さんの乱れた髪を手櫛でといてあげながら、母さんに小声で謝罪する。いくらうまく事が運べたからって……興奮しすぎでしょ私。


「……あ。そだそだ。ちゃんと連絡しとかないと……」


 おっと、母さんに見とれている場合じゃない。協力してくれた人に連絡することすっかり忘れてた。慌てて私はスマホを取り出し、目的の人に電話を試みる。



 Prrrr! Prrrr!



『はいこちら『クラブ・マイガール』です』

「もしもし店長。朱美です。今終わりました」

『ああ、朱美ちゃんヤッホー。報告待ってたわ』


 電話に出たのは今日母さんが私を指名した……女の子専門デリヘルの店長さんで、


『……ふふふ♪その声の調子だと……上手くいったみたいね』

「店長が協力してくれたお陰ですよ。……ごめんなさい店長、こんな事に付き合わせちゃって。色々と無理言っちゃって迷惑かけちゃいましたね」

『良いの良いの。私は女の子に恋する女の子の味方なんだから』


 そして……彼女こそ、今回の作戦の協力者だ。


『それにしても……最初に朱美ちゃんに電話を貰った時はビックリしちゃったわ。まさか――


『お金はいらないから……実の母親を堕とすため、どうか自分をキャストとして雇って欲しい』


――とか何とか言ってさー。この業界が長い流石の私も、そんな志望動機を引っさげて電話かけて来る子がいるなんて夢にも思わなかったわよ』

「ははは……我ながら、ホント思い切ったものだって思ってますよ」


 電話越しに店長と笑い合う。……ホントに、思い切ったトンデモ作戦に踏み切ったよなぁ私……


 ……今更改めて言うことでもない事なんだけど。私、梶原朱美は実の母親である梶原朱音の事が好きだ。母親としても、恋心を抱いている相手としても。好きで好きでしょうがない。それこそ……法律やら常識やらを知らなかった子ども時代から母さんの事が本気で好きで。大きくなったら母さんをお嫁さんにしようと目論んでいたくらいには大好きで。

 ……まあ、それがちょっと(?)無理だという事を学校の先生に教えられた時は。意味がわからず理由も納得できずに泣き叫び、先生たちを困らせて……挙げ句母さんを学校に呼び出す羽目になっちゃったんだけど。


 そんなこんなで自分の恋が報われない恋だとわからされて……ショックだったけど仕方ないし。母さんの思いをその身に潜めて節度を持って母さんと接してきたんだけれど……そんな私に転機が訪れる事になる。


 小学校、中学校を卒業したあたりから……母さんの視線が、妙に気になりだす。事あるごとに母さんに熱視線で見つめられていて。その視線が……自分が向けていたものとよく似ている事に気づいてしまった。

 よくよく注意して母さんを見ると。お風呂上がりに肌を露出させたりとか、ちょっとスキンシップした時とか……明らかに動揺を見せていたし。テレビに出てくるアイドルや雑誌に載ってるモデルさん——母さんが推すのは決まって……どことなく私にそっくりだったし。


 ……母さんは女性が好きなんだろうって事は……なんとなくそうじゃないかってわかってた。けれど……まさか。自分の娘をそんな目で見ていたなんて……

 お陰で秘めていた私の恋心が、息を吹き返した。私にも……まだチャンスがあるのでは……?と、淡い期待をしてしまった。


 だから私は……大学進学を機に、ちょっとした賭けに出る事にした。私が一人暮らしを始めるギリギリまで……わざと母さんを挑発するような格好で何度も誘惑して、母さんを欲求不満にして。その上で自分の部屋に、わざと『女性向け風俗』の記事が載った情報誌を母さんに見つかるように置いて、該当ページに付箋を貼り付けて。

 そして雑誌に乗っていた女性向け風俗のお店の店長と交渉し……キャストとして在籍。母さんの携帯番号を教えて……もしもこの番号でお店にかかったら。是非とも自分に対応させて欲しいと店長に頼み込んだ。源氏名を本名のまんま『アケミ』にしたのだって、母さんをより釣りやすくする為だったりする。


『——そして今日、見事朱美ちゃんはその賭けに勝ったのよね。……ふふふ、ホント凄い執念。まさか本当にお母さんを釣って。そのままお母さんのハートまでがっちりキャッチしちゃうなんてねー』

「本当に一か八かの賭けでしたけどね。コレしか方法が無いとはいえ。まだ夢見てるみたいですよ」


 自分で言うのも何だけど。こんな穴だらけの作戦。上手くいく方がおかしいと作戦立案した自分でも思う。まず第一に母さんが女の人を好きかどうかも確定してなかったわけだし。仮に女の人が好きだとしても、母さんがあの雑誌を見つけてその上でデリヘルを利用する保証なんて無かったってのに。

 それでも私は勝ったんだ。自分の手で母さんを堕とせたんだ……


『それで……どうだった?自分のお母さんを抱いた感想は』

「…………さいっこうでした。……私、もう幸せすぎてどうにかなっちゃいそうです。長年恋い焦がれた人と、心も体も繋がれた事は勿論幸せだし。それに、何よりも……」

「何よりも?」


 ——母さんを『母親』という立場から。一人の『女』に戻せた優越感が何よりも堪らない。


 聞くところによると……顔も知らない父親に、母さんは半ば強引に『母親』にさせられた挙げ句。そいつは結局母さんと私を捨てて、別の女のところに行きやがったらしい。私はともかく、あんなに優しくて可愛くて天使な母さんを捨てるだなんて……万死に値する。

 そんなクズの母さんにかけた『母』という呪縛を……私が、娘であるこの私が解いてやれた事が……何よりも最高だった。


「私の腕の中で乱れる母さんは。今まで見たことがないくらい輝いていました。『母親』の立場を一瞬ですが忘れてくれて……やっと自分の恋に素直になって。……無垢な少女みたいに、ひたすら私が与える快楽に委ね私に身を任せて……気持ちよくなってくれる母さん。それはもう美しかった……本当に素敵でした」


 一方的な片思いだったり。愛のない結婚をさせられたりと……まともな恋愛をしたことなんてなかったと言っていた母さん。

 その母さんに恋する楽しさを、好きな人と肌を重ねる悦びを……実の娘である自分が与えることが出来た。私、その事実だけで直接えっちい事されていないはずなのに達していたよ。


「……おっと。ごめんなさい店長、だらだらとこんな変な話聞かせちゃって」

『いいのいいの。寧ろ大歓迎。こういう女の子同士のエピソードとか店長は大好物よ。……ところで朱美ちゃん。本当に辞めちゃうの?うちに在籍はしていたけど……結局抱いたのはお母さんただ一人で。しかもその初仕事のお給料はいらないだなんて』

「良いんです。そもそも私……母さん以外の人を抱ける自信がありませんし。お金目的じゃないですし。変なお願いをしたお詫び金だって思ってください」

『私もお金は別にいらないんだけど……でも、朱美ちゃんが辞めるのは勿体ないなぁ。……ぶっちゃけ朱美ちゃんのポテンシャルなら、いずれうちのナンバーワンにだってなれそうなのに。…………あ、そーだ。なんならお母さんと一緒にうちで働いたりしない?』

「……母さんとですかぁ?嫌ですよ、母さんが自分以外の他の誰かに抱かれるとこなんて……想像しただけでもキレそうですから私」

『いやいや大丈夫大丈夫。うちのお店ね、『鑑賞コース』ってのもやってるんだけどさ。それって女の子二人がお客さんの前でプレイするところを見せつけちゃうコースなの。客はキャストに絶対に触れちゃダメってルールだから、安心して二人で働きながら、愛し合う事だって出来るんだよー』

「へぇ……」


 それは……ちょっとだけ興味があるかも。母さんと二人一緒に働いてお金稼げて、その上で愛し合えるとかすっごいお得じゃないの。


「……う、うぅん……」

「あ、ごめん店長。その話はちょっとそそられるけど……そろそろ母さん起きそうだ。その辺のお話はまた今度させてよ」


 まあ、でも今はそれよりも何よりも優先すべきは母さんだ。随分と寝て回復してくれたらしい母さんが、今にも意識を覚醒させようとしている。


「とりあえず母さんに今回の件の種明かし…………するのは、もう一ラウンド母さんと楽しんでからかな。そんじゃ、ホントにありがとうございました店長。またあとで」

『はいはーい。そこホテルだし、延長料金には気をつけるのよ。あと……お母さんにはあんまり無茶させないように気をつけてねー』



 Pi!



 店長に礼を言って通話を切る。そのタイミングで母さんが、大きく伸びをしながら愛らしいあくびと共に目覚めたご様子。

 さーてと、それじゃあ無事母さんも起きてくれた事だし。


「ふわぁあ…………あー、よく寝た。……あれ、ここどこ?えーっと?確か私は……朱美に、ホテルに連れ込まれて…………ハッ!?」

「おはよう、母さん。よく寝たみたいね。そんじゃあ早速——続きしよっか♡」

「め、目覚めていきなり!?ま、待って……待ちなさい朱美……!も、もう少し休ませて……!?せ、せめてこの状況を……もっとちゃんと説明してぇえええええ!!!?」


 早速、私の母さんを——私の愛しい恋人さんを。さっき以上に輝かせてあげるとしよう。


 どーでもいい余談だけど。もう一ラウンドどころか……愛し合いだしたら止まれなくなって。母さんと目いっぱい愛し合っては気絶するように寝て、そして起きては母さんと愛し合ってを繰り返し。

 ようやっと事の次第を母さんに種明かし出来たのは……結局次の日の朝だった。

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私のママはままならぬ みょんみょん @myonmyon

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