めぐりめぐるにじゅういっぽんのばら
藤泉都理
めぐりめぐるにじゅういっぽんのばら
薔薇は本数で異なる花言葉があるのを、ご存じだろうか。
二千二十一年、二月二十一日、本日を以て二十一歳を迎えた女性、
実験に実験に実験を重ねて漸く品種改良に成功した青い薔薇。
店に売っているものではだめだ、自分で創り出したいとの想いを貫いた結果、誕生してくれた青い薔薇だ。
青い薔薇の花言葉は「夢叶う」「神の祝福」「奇跡」。
まさに私と彼にピッタリの花言葉だ。
彼との出会いは、まさに神の祝福で、奇跡で、そして、私の夢は叶ったのだ。
久遠は何度も何度も深呼吸をしながら、待ち合わせの神社の屋根へと駆け上がった。
神社という神聖な場所のおかげだろうか。
巨大な杉が無数に植えられているおかげで木陰に覆われていて、この猛暑の中では信じられないほどに、涼しかった。
「これは私の気持ちです!受け取ってください!
「………」
久遠に頭と呼ばれた覆面に忍び装束の男性は黙って、膝を曲げて二十一本の青い薔薇の花束を差し出す久遠を見下げた。
蝉の鳴き声も、参拝客の声もせず、ただ、神主が枯れ葉を掃く音だけがその場を占めていた。
「久遠。悪いが。それは受け取れない。俺は、この土地を去る」
「ならば私も共に「行かせない」
「頭」
「もう、俺はおまえの頭ではない。俺は、この土地を捨てて、この国を捨てて、遠い国で。生きる事にした。一人で。新たな人生を歩みたい。おまえは」
「いいのか?」
「いいのですよ。俺は、あいつの忠誠に応えられない。この土地で共に忍びとして生きてはいけない。俺は、あなたについて行くと決めたのですから」
久遠に頭と呼ばれた男性は、隠し持っていた二十一本の赤い薔薇の花束を女性へと差し出した。
「あなたと共に俺は戦地に行きます。忍びとして。戦地に行って、戦争を終わらせて、あなたを無事にこの国に返す」
「おまえも。だろうが。あの子の為にも、帰らなければな」
「………帰って来た時には、あいつにはもう。俺は不要になっていますよ」
(莫迦だな。私も。おまえも)
眉を顰めた女性は家路を辿る久遠を一瞥したのち、男性から花束を受け取った。
「此度だけだ。此度だけ。おまえの忠誠心を受け取る。此度だけ。この戦いが終われば。もう。おまえは自由だ」
「………はい」
「行くぞ」
「はい」
歩き出した女性の後を男性は追った。
未だ視界に入る久遠を一瞥する事なく。
ただ。心中でだけ、謝罪の言葉を繰り返して。
二十一本の薔薇の花言葉は「あなただけに尽くします」。
男性はすでに心を捧げていた。
国へと心を捧げた女性に。
けれど。
(嬉しかったという言葉さえ伝えなかった俺を。忘れてくれよ。久遠)
(2024.8.8)
めぐりめぐるにじゅういっぽんのばら 藤泉都理 @fujitori
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