7, 星 (2)

柚太ゆたって、いつからわたしのこと気にしてくれてたの?」

 栞の隣に座ってバーナードの詩集を読んでいた柚太は、のろのろと本を閉じた。スイカを手に取りながら「ええー」と情けない声を上げる。

「……今聞く?」

「今読んでるの『星が落ちる前に』でしょう。それ見たら、急に思い出したんだもん、柚太からメモ書き渡された時のこと。たしか中庭だったよね。ちなみにわたしはクラスメイトとして良い人だなって思ってて、『星が落ちる前に』のやりとりきっかけで意識するようになったよ」

 先手を打てば、答えざるを得なくなる。

 そう考えた栞はいたずらっぽく笑って、柚太に詰め寄った。柚太はソファの端の方に寄って行く。

「……栞は会えなかった夏休みの間に、意識し始めてくれたってこと?」

「そうそう。会えなかったけど、テレビの中で観たからね。一生懸命な顔で野球をやってるところが素直にかっこよかったし、同じ詩人が好きなのも嬉しかったから、気になっちゃったよ」

 柚太はスイカを皿に戻して、少し赤くなった顔で栞の方を見た。

「……俺も、栞が教室でバーナードを読んでるのに気づいて、そこから気になってた」

「えっ、そうなの」

 まだ柚太が手を付けていないスイカがコテンと倒れ、栞の食べかけのスイカにもたれかかる。

「……うん。一年の時に、高校では読書好きの友達できるかな、って期待してたんだけど、意外といなくてさ。読書は一人で楽しむしかないかって落ち込んでた時に、教室の机の上にバーナードの本があるのに気が付いて。どんな奴が読んでるんだろうって思ったら、栞だったんだよ」

「それじゃあ、高校一年の時からってことかあ。二年越しの告白だったんだ」

 じっくりと繰り返すと、柚太は唇を指で触りながら「うんー……」と間延びした返事をする。

 耳が赤くなっているのを見ると、栞はクスッと笑って、柚太にいっそう詰め寄った。

 顔をそむける柚太をのぞきこむと、ますます顔を反らされてしまう。

「……勘弁してくれない?」

「あはは、ごめんごめん。教えてくれてありがとう。うれしい」

 柚太は真っ赤になった顔で、栞の方を見た。その目は、部屋の灯りを受けてキラキラと光っている。

 やっぱり柚太の目は星みたいにきれいだな、と栞は思った。

「……俺こそ、好きになってくれてありがとう」

「こちらこそ。これからもよろしくね、柚太」

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白と青と星 唄川音 @ot0915

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