まじないの金貨

鮫鶲(サメビタキ)

第1話

 ギャンブラーのG氏は、酒場の窓際の席からぽつりぽつりと降る雨を眺めている。ギャンブルでの賭け事に負けたことに頭が一杯だったのだ。そんなG氏を見て、ニヤニヤ笑う友人が話しかけた。

「なんだ。また負けたのか。」

「勝ち負けなんて、お前には関係ないだろ」

「まあ、そう言うなって」

 G氏にとって、友人は長年の付き合いで気が許せる人間だった。いつものように軽口を叩き再会を喜んだ。しばらくして、友人はウェイターを呼びつけた。

「この哀れな、G氏にビールを一杯」

「おい、おい。ケチなお前が随分と羽振りが良いじゃないか」

いつも奢る立場だったので、G氏はとても驚いた。

「そうだろう。」

「いったいどうしたんだ」

「それはだな……」

 友人がG氏に語った話は、こんな内容だった。とある古い屋敷を修繕する仕事を請け負った。その屋敷の所有者は、老人で金持ちだった。友人は金に困っており給料の上乗せをお願いしたらしい。そのときに老人から金貨を渡されたらしい。こう付け加えて。

「この金貨は、使うと必ず賭けに勝つ。そんなまじないが掛けてある」

友人は胡散臭いと感じたが、何となく賭けで使ってみたんだとG氏に言った。

「……。結果はどうだったんだ? 」

「この通りさ。最高だね」

友人は、金貨が山ほど入った袋を取り出した。

「で、ここからが本題。あの金貨を使って増やした金貨にも同じまじないが掛かるみたいなんだ。ギャンブルに負け続ける哀れなお前にこの金貨を一枚やるよ。これでお前も勝ち組さ」

 G氏は、友人と別れ帰路に着く。弱かった雨は次第に強まり、風が勢いよく吹きいていた。悪天候の中、町を彷徨っていると視線の先に賭け酒場があった。

 手の中にはまじないの金貨がある。このまじないの金貨が本物か試してみよう。何となくそう思ったG氏は、賭け酒場に足を進めた。雑踏の中、行き交う人間に肩がぶつかった。酒で酔っていたのか、ふらついて腰をついた。

「すみません。大丈夫ですか。」

若い紳士風な男だった。

「こちらこそ。申し訳ない。酒で酔っていたもので……」

G氏が紳士風な男に謝ったその時、手の中からまじないの金貨が無くなっていることに気づいたのだ。きょろきょろ周りを見るG氏に紳士風の男は言った。

「どうかされましたか」

握っていた金貨を失くしてたことをG氏は告げた。それを聞くと紳士風の男は申し訳なさそうに懐から金貨を一枚取り出した。

「これで、どうか許して頂きたい」

金貨を手渡すと紳士風の男は去って行った。その後姿を見送ると共に、ギャンブルをする気が失せたG氏は、自宅へと足を向けたのだった。

 数日後、G氏はいつもの酒場で外を眺めていた。

「君の友人についてなんだが、ちょっといいかな? 」

声を掛けられたG氏が視線を向けた先に、あの時の紳士風の男がいた。紳士風の男は椅子に腰を掛けると懐から金貨を取り出した。その金貨は、まさしく雨の日にG氏が失くした金貨だった。

「私は探偵でね。職業がら、君が探していた金貨が気になってね。あの日、探していたんだ。しかしね、この金貨。君が手にしては駄目な代物だったんだ。この金貨はね、命を糧に財をもたらす。そんな呪われた金貨だったんだ」

紳士風の男は淡々と、そう告げた。

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まじないの金貨 鮫鶲(サメビタキ) @koya023

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