反撃
俺は人差し指を曲げた。目の前で黒い壁が溶岩みたいに溶ける。失神しない限りの全速力でその小さく赤い穴を通り抜けた。黒の破片が機体に思いきり衝突して、視界の半分を奪っていった。カメラが破損しちまったんだ。
背後でものすごい光。地球からの
俺の背中とシートをつなぐ白いコードの向こうで、工場はその角張った全体像を現した。黒い壁はほとんど蒸発しちまった。灼熱の
〈近くに使える通信ノードはあるか?〉
探索に数秒かかった。この数秒が稼げるなら一生分の配給券を渡したっていい。
〈
〈だよな〉
作戦Bだ。機首を目標へ向ける必要がある。それも正確に。一度、いや一秒の誤差だって大きすぎる。なにせその目標は八億キロメートル彼方にあって、大きさはその八万分の一程度しかないんだ。
人間に……俺にそんなことが可能なんだろうか?
〈提案。操作を補助〉
〈なんだと? 俺がなにをしたいかわかるのか〉
〈
ひゅう、と口笛を吹く。
〈ぞっとするね〉
〈時間は希少。決断を要請〉
考えるまでもなかった。こいつに任せなきゃ不可能なんだ。
〈わかった。たのむ〉
〈
右手がひとりでに操縦桿を倒し、ゆっくりと確実に機首を標的へ向ける。
〈機首方向調整完了。レーザーアレイ調整。連続照射モード〉
続いて機首でモーターが作動するかすかな振動。
〈調整完了。目標、地球。送信開始〉
俺はただ人差し指を見つめる。規則正しくトリガーを引いてリズムを作りだしている。四十五分でレーザーは地球へ到達するだろう。
目を閉じた。俺だって、せめて想像の中で地球へ行くぐらいは許されるはずだ。
空に緑色のオーロラが輝く。消える。また輝く。注意は引くが誰にとっても無害だ……戦争屋どもを除いて。
SOSのリズムで輝くオーロラが、誰かをここへ引き寄せるだろう。
網膜が輝きで満ちた。
光子の泥沼で 事後和人 @kotogokazuhito
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