爆撃

 どこをどうやって走ったのか、もう思い出すこともできない。

 ともかく俺は銀色に輝くファイターの機体へ両手を突いていた。格納庫に戻ってきたらしい。俺のファイターかだって? たぶん違うが、それは重要じゃない。どれだって同じなんだ。始めから。

 機体の鏡面に映っているのは俺だ。

 真っ黒な目。首がなく、とんがった頭から胴体へ滑らかなラインでつながっている。ぶよぶよした腕と脚、そして背中から触手のようなもの。

 直立歩行の軟体動物。

 機体を思いきり叩いた。

 騙されてた。整備士の顔も、俺の顔も、見えるものは全部歪められてたんだ。いつからだ? 視界補助をいつから使い始めたのか覚えてない。

 マスクを外す。長年溜め込まれた洗濯物の匂いがした。人間の匂いだ。

 格納庫が巨人の拳で殴られたみたいに、揺れに揺れた。ファイターの固定脚がきしむ。俺は顔を上げる気力もない。


レーザー爆撃コンシューマーか?〉

〈――肯定アファーム

〈ここは破壊されるんだな? 俺に見つかったから〉

肯定アファーム


 ミー・トゥーは素直に応じた。こいつを恨む気にもなれない。こいつはただの道具だ。肉人形ミートマトンも道具だし、条件づけ囚人も俺もそうだ。この茶番を続けるための。

 痛みがなくなっていることに気づいた。鎮痛剤を注入されたのか? いや、追加の痛みがないんだ。やけに静かだ。

 ハッチにスクィディオたちがたたずんでいた。手首のレーザー銃アッシャーはもう俺を向いていない。

 また大きな揺れ。この工場の構造材そのものがひしゃげる、ぞっとするような地鳴りが突き上げてくる。


「なぜ撃たない」


 俺は聞いてみた。一番前のスクィディオが、口のようなものを開く。


「お前が敵だからだ」


 かすれた声だ。ごぼごぼと粘液を泡立てるような音も混じっている。何十年も声帯を使っていないんだろう。


「どういう意味だ?」

「我々は、作業に従事しない個体を排除するよう条件づけされている」


 笑えてきた。くつくつと喉を鳴らし、俺は言う。


「なるほどな。味方を撃つのは義務だが、敵はそうじゃないんだ」

「どこの生まれだ」


 この期に及んで世間話か?


「……ユタ州の環境ドーム。家は小さい牧場をやってた」


 うなずくスクィディオ。黒い目が俺をじっと見つめ、言った。


「我々もそうだ」

「なんだと?」

「我々も同じ思い出を持っている。全員が」


 そこで、ついに工場の隔壁が破られた。猛烈な勢いで空気が虚空へと殺到する。八十五年の強制労働の歴史にもついに終止符が打たれるわけだ。

 怪物の呼吸音が響く中、スクィディオどもは逃げようともしない。

 ただ俺を見ている。

 俺がどうするのかを。


 

 

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