解読
運良く出口を見つけることができた。今度は手のひらを撃ち抜かれた……もはや痛みを感じる余裕もない。
〈この糞アニメーションを止めやがれ!〉
手探りでハッチが閉じたことを確認し、廊下を滑っていく。相手が追ってきているのかどうかもわからない。目の前の状況は混乱を極めていて、枝分かれした矢印と酸素残量と血圧と航星図と今日のニュースが代わる代わる視界を占拠してくる。その後ろは相変わらず点滅しているが、いまでは黒い時間よりも白い時間の方が長い。
〈視界補助を止めるんだ、いますぐ! 命令に従え!〉
インプラントはだいぶためらった後、返答した。
〈
白一色。
ようやく瞳孔が正常に反応して、痛みを伴いながら収縮していく。ぼんやりと結実していく風景。
俺は口を開き、閉じることを忘れた。
見えたのは完璧に正常な廊下だった。照明は点いてるし、それに
〈どういうことだ。説明しろ〉
返事がない。無視することを決めこんだみたいに。
俺はハッチの操作盤を撃った。これで時間を稼げればいいが。ハッチの方をちらちら見ながら、
「工場船だと?」
自分に言う。
「操業開始……八十五年前?」
白い指を必死に動かす。イライラするほど操作性が悪い。脳直が使えないとこんなに不便なのか。
「ずっとファイターを作ってる。ものすごい数だ」
背中が何かを引きずってる感覚があるが、無視だ。とにかく情報が欲しい。
「最近、誰かがレーザー通信機に細工をした。タイマーをセットしてある。そいつはファイターを奪って逃げた」
ハッチからたき火みたいな、なにかが爆ぜる音。火花が上がっている。外側から焼き切るつもりだろう。もってあと二分ってとこか。もう少しで核心へ迫れそうなのに。
「その直後にファイターと……たぶん俺のだな……レーザーリンクが確立した。自動メッセージを送ったらしい。内容は?」
すけて。たすけて。たすけて。もうつくりたくない。ぜんぶうそ。せんそうなんてない。たすけて。たすけて。たすけて。もうつくりたくない。ぜんぶうそ。せんそうなんてない。たすけて。たすけて。たす
指が力なく曲がった。自分へのおしゃべりもすっかり止まっちまった。ぱちぱち言うレーザーカッターの音に包まれて、俺はその指をもう一度よく見た。
白い。
白い皮だ。
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