退避

 何回も何回も撃った。それこそ相手を穴だらけにしてやるつもりで撃った。

 一生分の時間が過ぎたころ、ようやく視界が戻った。

 目の前の床にスクィディオが倒れている。反射的に焼け焦げの数を数えた。たった三つ。でもそのうちのひとつが運の良いことに、相手の額を撃ち抜いていた。戦争の神マーズに感謝しないとな。

 

〈こいつはスクィディオで間違いないな?〉


 マスクがはがれそうなぐらい荒い息をしながら、待った。応答がない。


〈おい、応答しろ。状況報告ステータス!〉

〈――部分的損傷――視界補助システムをバックアップに切り替え――〉

〈酸素は?〉

〈残り――十五パーセント〉


 俺は毒づいた。これじゃ救出どころか、自分が帰れるかどうかも危うい。ヘルメットのライトも点いたり消えたりしている。そのたびにイカの化け物が浮かんでは消える。ここに長く居たくはない。


〈仕方ねえ、帰ろう。出口まで案内しろ〉

〈ラ――了解ラージャ


 矢印のアニメーションが現れた。だがまたたいて消えちまう。


〈おいどうした?〉

〈システム不調――再起動〉


 再び現れる矢印だが、てんで駄目だ。でたらめにあちこちを指し始めた。右左上下、しまいには先端が避けて二つのルートを同時に指す始末。


〈もういいもういい。視界補助を消せ〉

拒否デナイ


 なんだと?


〈なぜ拒否する。自力で帰れるさ〉


 インプラントはまた黙りこんだ。


〈おい、なんでなのか説明しろ〉


 目の前のノイズが激しくなり、またしても白い光が両目を刺す。点いたり消えたりする電球を眼球へ押しつけられてるみたいに。


〈――システムに重欠陥。シャットダウン試行失敗〉

〈さっきと言ってることが違……〉


 二の腕に激痛が走った。レイピアで貫かれた感じだ。いや、もっと酷いだろう。たぶん内側は炭化しちまってる。レーザー銃アッシャーで撃たれたんだ。

 当てずっぽうで撃ち返した。今度は肩を撃たれた。

 点滅する視界、踊るアニメーションの中を、俺は壁沿いに滑りだす。

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