機械王国の反乱
『もし、私が狼煙をあげたら、ユリアはすぐに王城を脱出して』
『ん?いきなりどうしたの?』
私の友人兼天才発明家の少女は、机の上に置かれたチェスの駒を動かしました。
動いたのはポーン。でも、その手はどう考えても悪手ではありませんか?
私の考えと番を無視し、オルクの駒が再び動きます。
『国が敗北した瞬間は、混乱に生じて革命が起きやすい。憤った民衆は怒りの矛先をどこに向けると思う?』
『権力者、かしら?』
オルクは小さく頷くと、ピジョップの駒を動かしました。でも、それだと守りが薄くなってしまう気がします……。
友人が再び私の番を飛ばします。
『戦争で疲弊した国王軍は脆い。塔は崩れ、騎士団は統制を取れず、貴族は自らの領地を守るための保身に走る。民衆は一人では弱い。それは、国王であっても同じこと』
『何が言いたいの?それと、さっきから私の番を飛ばしてばかり……』
あれ?私の番は飛ばされているのに、オルクの盤面はどんどん弱くなっている。
それどころか、私は何かを動かせば勝てる状態にまで運ばれていた。同色のポーンに阻まれ、相手の上級職の駒は動けないし……。
友人が私の手にクイーンを握らせました。その瞳には強い覚悟が読み取れます。
『ユリアはまだ死ぬべきじゃない。それに、追い詰められた人間は何をするか分からない。命と国を天秤にかけても、おそらく前者を優先してしまうくらいに』
赤色のクイーンが黒の国王を打ち取りました。それはそれは鮮やかに。
——現在。
「戦争を引き起こした罪人を探せ!」
「国王が全ての原因だ!必ず捕えろ!!」
「国王一家は皆殺しだ!血筋を途絶えさせろ!」
古来から、王族とそれに連なる者たちのみが歩くことを許される王城。しかし、今日は土足で走り回る音が聞こえます。
給仕たちの悲鳴と叫び声が聞こえ、金属と金属がぶつかり合う音が響きます。
私——アンティラ・フォン・ユリアーナは、秘密の地下道をひたすらに走っています。
執事長の手引きがなければ、私は確実に殺されていた。
『姫様、じいやもすぐに後を追います。オルク様が準備してくださった抜け道があるのでしょう?ささ、早く逃げてくだされ』
じいやが剣を持つ姿を私は初めて見ました。
そして、その手が震えていたことも……。
「(早く逃げなくちゃ……)」
怒号と悲鳴が混ざった聞くに耐えない言葉が上から聞こえてきます。
この地下道のすぐ上は王城の廊下。下手に声を上げれば見つかってしまいます。
「おい!国王と王女がどこにもいないぞ!」
「玉座の間にもいない!あのジジイが守っていた部屋は探したか!?」
「何もいなかったよ。クソっ!あの老害、ただ時間を稼ぐための囮かよ。もっと刺しとけばよかったぜ」
「じいやがっ——!?」
慌てて口を抑えますが、流石に気が付かれたようです。男たちの声が近くなります。
「おい、今子供の声がしなかったか!?」
「この床の下だ。剥がしてみるぞ!!」
剣山をひっくり返したかのように刃が床を貫き、足音がどんどん増えていきます。
恐怖で私の足が震え、ぎゅっと目を瞑りました。小さく名前を呟きます。
「助けて……オルク……」
『いいよ』
耳元で声が聞こえました。友人の、オルクのぶっきらぼうで優しい声。
直後、立っているのが困難なほどに大地が震え、何かがギシギシと音を立てて動き始めました。
「うわぁっ!!か、甲冑が、俺の腕をっ!!」
「落ち着け!た、ただの機械人形だ!少し離れたところから魔法を放てば——」
「駄目だ!こいつ、魔法が効かねぇ!!」
甲冑……そういえば、オルクが少し前に廊下に設置していましたね。念の為、とか言ってましたけど……まさかこのために!?
私は涙を袖で拭い、轟音が鳴り響く床下を再び歩き始めます。
友人に救ってもらったこの命、無駄にするわけにはいかない。
私はユリア——アンティラ・フォン・ユリアーナ。この国の王女で、オルクの親友なのだから。
魔王に転生した世界最強のママ。世界を巻き込んで喧嘩している娘達を”めっ”する @namari600
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