ママ、娘にバレる

「オルク、ねぇ……」

「! 装填準——」


 何かを言いかけた娘もどきの顔面を掴み、私は負のオーラを最大限開放する。

 不可侵の結界がギシギシと悲鳴をあげ、魔力を吸っていた機械から異音が鳴り始める。

 娘の顔をした少女が私の腕を叩くが、気にせず頭蓋を締め上げていく。


「!! あ……がっ……はな、せ……」

「黙れ偽物。なんの冗談か知らないが、私は我慢というものを知らない。さて、本当の名前を教えてもらおうか」

「わ、たし、は……オル……クっっ!!!」


 それは一瞬の出来事。

 ただ、偽物少女の頭蓋が砕け散っただけ。

 手足がだらんと垂れ、完全に動かなくなった機体を私は壁に叩きつける。

 鉄塊となった機体から、青い球体が転がり出てきた。映像魔道具か。

 私はそれを睨みつけ、魔力を使って接続先に無理やり入り込む。


「こちらの映像を見ているね?私は魔王ヘル。改めて聞くが、これはなんの冗談?」

『……私はオルク。今回は魔王ヘルの実力を見定めるための実験。失敗に終わったけど』

『オルク様!?それはいったいどういう』


 魔道具を伝って、娘の後ろで騒いでいる者達を光の縄で縛り上げる。オルクが息を呑んだのが分かった。


『……その魔法技術をどこで習得したか非常に気になる。私の母以外に、魔道具を伝って攻撃する思考を持った者がいるとは……』

「別におかしな話じゃないよ。それよりも、そちらの顔を見せてくれない?私だけ見せるのは不公平ね」

『……分かった。その魔道具は映像を映し出すこともできる。機体の後ろにある隙間に……』

「隙間に魔力を流し込む。今回は青色だから、量としてはコップ半分くらいね」


 オルクは研究や開発のこと以外には興味が薄い。つまり、非常に忘れっぽい。

 そこで私が考えたのが、色で物事を管理する方法だ。

 オルクの得意分野は魔道具の開発。そして、魔道具を扱うには魔力が必要。

 魔道具は物によって必要魔力が変わってくるので、オルクには魔道具の外装の色で判断できるようにしてもらった。

 その癖が治ってないんだよね……っと、開いたね。


『なぜ私の秘密を……まさか、裏切り者が?」

「そんなのはいないよ。誰も裏切らなくても情報が漏れてしまうことはよくあることだ。例えば……寝言を誰かが聞いていた、とかね」

『っ!!』


 おっと。これはオルクと私だけの秘密だったっけ?ま、オルクにはもう好戦の意思がないから問題ない!

 おそらく、先ほどのオルク人形が魔力妨害の結界の発動主。今や鉄屑となった巨大機械が魔力の供給元だろう。

 魔道具から光が壁に放たれ、口元を抑えている娘の顔が映った。

 

『母さん……?』

「ん?私はヴィナじゃない。私の名前は魔王ヘル。ただ、自分が好きなように魔族領を発展させる女の子ね」

『それ……母さんの口癖みたい。母さんは自分の家族を幸せにする女の子、だったけど』


 オルクが優しげな眼差しになった。うん、やっぱり私の娘は可愛い。少し目の下の隈が気になるところだけど化粧すれば消えるかな?

 映像の向こうで、オルクが立ち上がった。


『全軍に指示を出す。これ以上の魔族との争いは無益。妨害の結界は破壊された。各部隊に通信魔道具で連絡を。母さん、魔法を解いて』

「はいはい」


 指を縦に動かし、縛り上げていた者達を開放。軽い悲鳴が聞こえ、オルクがニヤリと笑う。

 私は首を傾げ、問いかける


「何がおかしいんだい?」

『私は母さん、としか言ってない。あなたは魔王ヘル。私の母さんはヴィナ。もう逃げられない』

「しまっ……!!」


 完全に油断していた。慌てて口元を抑えるがもう遅い。通信魔道具が切れ、静寂が辺りを包み込む。

 私はただ一人、目元に手をやって呟いた。


「……ほんと、誰に似たんだろうね」

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