第23話

 好きなひとの名前を呼びながら体をゆすった。イミも好きなひとの名前を呼びながら、それ以上にはげしく求めてきた。お互いがお互いのmediaでしかなく、けれどこの世界に産みおとされた朝のように、ideaだった。引いていく波にあばらが洗われ、くろいイソギンチャクがおどり、はずかしいところがすべて露わになって、月光に火照るしろい裸体がふたつ、衣服すらなにもない砂浜に置きざられた。嘘もほんとうも、すべて放ちおえて、絶えだえの息が落ち着いたころ、イミは、

「Thank you, ガッツ」

 となくようにわらいながら、ひとつのまま、潮のからいあじがするくちびるを、つよく、つよく、押しつけてきた。そうして初めて、世界に見つけられたように思った。

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FATHER にゃんしー @isquaredc

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