おちていく――どこまでも


本作は三幕構成。
その時の移ろいに登場する『おちる』という印象操作。まるで意識下に落とし込むサブリミナルのように刷り込まれていく感覚が印象的。

時折魅せる色彩豊かな描写も、同じ夏とは思えない趣が網膜に優しく残る。
作中に登場する人物名を意味する小鳥と海が紡ぐ渡りゆく季語からは、流れる時を繊細に感じ、風情として逍遥する心情にとても味わい深い。

気づけば深淵な描写の細部を追うほどに無意識に魅了され、おちていくようだ。

広海という大らかな青のイメージが小瑠璃という幼き青を包むように、タイトルの三文字が表す修辞の豊かさに支えられて、夢見心地として純然たる愛おしさにおちていく。

夢うつつで、どこまでも。

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