まちかどのありふれていない話

坂道

　走（はし）りなれた坂道（さかみち）。

　自転車（じてんしゃ）はいつもブレーキもかけず一気（いっき）に下（くだ）っていく。

　風（かぜ）が気持（きも）ちいい。

　爽快感（そうかいかん）がいい。

　ふっと、何（なに）か、おかしな雰囲気（ふんいき）。

　言葉（ことば）にしにくい。

　晴（は）れた日（ひ）に雲（くも）がよぎったような。

　眉（まゆ）をひそめた瞬間（しゅんかん）、荷台（にだい）に重（おも）さを感（かん）じた。

　悲鳴（ひめい）をあげそうになった。

　走（はし）る自転車の影（かげ）。

　その荷台（にだい）に人（ひと）が！

　立っている。

　あり得（え）ない！

　歯（は）を食（く）いしばる。

　息（いき）が詰（つ）まる。

　ブレーキが利（き）かない！

　血（ち）の気（け）が引（ひ）いた。

　自転車はジェットコースターとなって坂（さか）を下（くだ）っていく。

　大（おお）きな通（とお）りに突（つ）っ込（こ）んでしまう！

　アッハハハハハハハハ！

　木霊（こだま）するくらいの大きな笑（わら）い声（ごえ）だった。

　力（ちから）いっぱい、ブレーキを握（にぎ）りこんだ。

　体（からだ）が吹（ふ）っ飛（と）ぶ衝撃（しょうげき）を受（う）けて転（ころ）んだが、止（と）まった。

　私（わたし）のほかには誰（だれ）もいなかった。