理想の順番それは外→内→おかげ→雑
花森遊梨(はなもりゆうり)
実際の順番? 外→翌日→内と雑
ホテルルートイン伊勢
伊勢参り二日目
天気は大雨
「前にも大雨で大変なことにならなかったか?」
「以前は確か花火が台無しになったはずだよ」
そう語り合う男女は、山口誠司に鬼打久留美である。
伊勢参り二日目。
この二人、思うところがあって伊勢参りを思い立つ。しばらく運転していない免許と、新幹線のチケット、ずっと使ってみたかった「手ぶら旅行サービス」の力で、本人以外を鳥羽へと飛ばした。
新幹線・近鉄を乗り継いで鳥羽に至り、レンタカーを確保し、そのまま伊勢市に直行。駐車場が満杯だった内宮を一旦スルーし、外宮に至る。夏とは思えない気温に神の力をビンビンに感じ、そんな気の緩みのせいで転んだ拍子に現地の樹木にタッチし、
参拝した証(お守り)を手にした。
その後は内宮駐車場に奇跡的に見つけた空きスペースに自動車をねじ込み、内宮を守護する肉の壁(おかげ横丁)を越え、木が刈り込まれていたり、鯉の池があったりと人の手入れや欲望を感じる内宮もお参りした。
そして真打たる「伊雑宮」に行こうとして早々のこの天気である。
「伊雑宮ってなぜか志摩にあって、行くには山を突っ切らないとダメなんでしょ?ならやめたほうが良くない?」
そう、大雨というのが絶妙だ。数万の雨粒は神々からのお祈りメールととることもできる。
「山を越えると言っても登山じゃなくて、車でトンネルを越えるんだよ。この機会を逃したら、伊勢神宮と違ってバスも何も通ってない伊雑宮のためにだけ、わざわざここを訪れることになっちまうだろ」
誠司は違った。「伊勢参りをしたいという気持ちで胸がいっぱいならばたとえこういう逆境でもお参りができるはず」というという焼き土下座的神の意志をこの豪雨に見出したようである。
昨日訪れた内宮を通り過ぎ、電柱にもぶら下がる「赤福」の看板に見送られ、伊勢道路に入る
「この辺は明らかに他とは違うね」
このような山や海と近い町から離れるときは人里から離れる心細さを感じるものだ。
「久留美も感じるのか?」
「いきなり人里から自然界に切り替わってる、厳かさを」
「雨がいい感じに弱まって日曜日の探検番組のジャングルのようになったこの光景を」
「「はあ!?」」
「「いや、この光景を見てその感想はおかしい!!」」
そんな2人に真逆の感想を抱かせる伊勢道路のうち、最初トンネルに至るまでの伊勢側の敷地は伊勢神宮の敷地、つまりは神の持ち物であるため、人間の立ち入りは禁止。さらに道中には五十鈴トンネルもあり、神様にリスペクトがないとか怪談話の主人公といった人間が神隠しに遭いそうな雰囲気に満ちている。
伊雑宮
幸い、誠司と久留美は神隠しにあうこと無く辿り着いた。
伊雑宮本体を覆う「森林」、的矢湾の「海」、なぜか敷地内にある「水田」、周囲に存在する「人里」 まるでアスファルトやソーラーパネルが来る前の日本を縮図にしたような不思議な世界だ。ここだけ妙に涼しい。
外宮や内宮と同じで中には生える樹木はどれも太くて長く、力強い。その辺の山沿いや近所のに生えている同じような木に比べて樹皮がやけに赤っぽく、近づくとまるで脈動する筋肉の塊が林立しているようにさえ見える。
「別宮とはいえ、木には触るなよ。特にあそこにある饅頭みたいな」
「神域の自然物には触れるな。でしょ?伊勢に来る前の夜にうるさく教えてもらった」
神様のものに触れればパワーをもらえるのはゲームの中だけ。そして伊勢神宮に座すは天照大神。すなわち太陽に「せっかくだから」感覚で触れば、大火傷というわけだ。ちなみに、伊勢神宮には抱きついたらその後足の骨を折ったという恐ろしい御神木もいくつか存在する・嘘か本当か、正殿の近くの巨木には複数の巨大な鬼が守護しているので触れるどころか撮影することも禁じられているとも聞く。
伊雑宮本殿
周囲を覆う森が開けた砂利の空間の中、内宮の
小雨が霧雨に変わっていた。
二人の他に人はおらず、硬貨をを投げなければお賽銭ができないという不敬の心配もない。久留美(なぜか)用意していた薬包紙に500円玉を包むと、本来そうであるように、お賽銭箱に滑り込ませる。
二礼
二拍手
一礼
(豪雨の中、目的地を優先するという、山や海見たいな自然環境ならマウンテンドクター出動間違いなしの選択をして無事にここまできたことを感謝すべきだろう)
(二柱の神のドライバー(ペーパードライバー)が未知の伊勢志摩でぶっつけ本番で車に乗って今日まで無事でいさせてくれてありがとうございますっと)
いつの間にか雨は上がり、空は曇り。
御神木への不敬抜きでも足を折りかねない二つの無謀さに対し、神様が何を思ったかは、定かではない。
理想の順番それは外→内→おかげ→雑 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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