第52話 殺劇の舞台【キ=ルクスの極限サーカス】
マキシマが【伝承顕現】を展開する中、リュウセイは黙って見ていたわけではない。
抜き撃ちが見えない速度で『道化師』のアバターを狙い撃っていた。
額、胸、腹の三点に命中する。
しかし、それは――――
「まあ、無防備でやるわけないよな…………」
『道化師』と同じ姿の人形が舌を出して煽るような顔で倒れた。
若干、イラっとするリュウセイ。
人形と変わったそれはスキル【カウンター・トリック】。
一試合に一度だけ攻撃を無効化するG級スキル。
展開に隙が出来る【伝承顕現】を発動するのに役に立つ。
リュウセイが人形に変わったことを驚いてないのは、イベント期間中に似たスキルを見てきたから。
『スイゲツ』ことミズキが使った【
無効系スキルは上位帯必須っと言っていいほどスキルなのだ。
【伝承顕現】を阻止できなかったことで闘技場が姿を変えていく。
頭上は天幕が広がり、ステージ全体を覆い隠していく。
変わった世界は、まるでサーカス小屋の中の様だった。
そして、上から、横からスポットライトが中央に立つ存在を照らす。
そこには――――
『ようこそ。我が【キ=ルクスの極限サーカス】。我が独壇場へ』
マキシマがアバターと大仰な礼をしていた。
『これより我が――――いや、我らの舞台を始めようかッ!!!』
その声とともにステージの端から火柱が一瞬上がる。
リュウセイは未知の【伝承顕現】の効果を警戒し、一挙手一投足を見逃さないように相手を睨む。
『ククク……ただの演出では驚かんか』
「目を離したらヤバい人がいるからな。驚く暇もない」
『目を離したくない存在というわけだな!我がかっこよすぎるからな!』
「くッ。視界に入れたくなくなったッ。これが誘導テクかッ!?」
『ちがうよ!?――――って、ふざけるのはここまでにせねば、なッ!』
サーカスのスポットライトはふたりを照らし。
これから起こる殺劇の舞台を演出していく。
再び始まるは【クイックチェンジ】を使った銃撃戦。
今度の開幕を告げる砲声はマキシマ側から始まった。
いまだに【伝承顕現】の効果が分からないまま、その銃撃に応じる。
それは最初に交わした応射の焼き直しだった――――が、どこか違和感があった。
(なんだ?【伝承顕現】の効果か?なにかがおかしい?)
その違和感の正体が分からないまま『銀装:サジタリウス』と『道化師』の距離が近かづいていく。このまま接近するのは危険なのだが、足を止めようとすると牽制射撃が当たりそうになる。
そして、ときおり無意識に動き、相手の一撃が腹部を掠った。
とっさに躱さなかったら直撃している。
「ちッ!」
高度な応酬をしながらマキシマはリュウセイを墓穴に
集中を切らせばそこで終わるだろう。
いま『銀装:サジタリウス』側が押されていた。
(さすがレジェンドッ!イベントで戦ったどのプレイヤーよりも強いッ!)
マキシマのプレイヤースキルは卓越している。
数々の戦闘技術を確立して、それに名前が付くほど実績は伊達ではない。
それについていけるリュウセイが異常なのだ。
プロ選手でもマキシマの猛攻についていけるものは少ない。
(仕方ない――――)
彼我の距離は残りわずか。
はりつけた笑みを浮かべた『道化師』はになにかを企んでるようだった。
この先はまるで『怪物が大きくアギトを開けている』ように見えた。
(ここで切るか)
切り札ではない、隠し札のひとつを切る決断を――――
「――――ん?もしかして、これか?」
――――する前に何かに気づく。
彼我の距離は手の届く距離に来た。
『よくぞここまできた『リュート』!だが、残念――――』
これより――――
『詰みだッ!!!』
一方的な蹂躙劇の幕が上がる。
至近距離で二度目の嵐の如き演武が始まった。
再び、開かれた激しい攻防と圧倒的な密度の応酬は一度目と同じに見えた。
――――途中までは。
徐々に『銀装:サジタリウス』側が押されていく。
それはプレイヤースキルの違いではなく。もっと根本的な性能が違っていた。
『どうだ?【キ=ルクスの極限サーカス】の能力はわかったか?わかっても、もう遅いがなあ!!』
「やっ……ばいなッ!?」
相手の銃弾が銀色の外装を削っていく。
それでも相手の猛攻を防ぐが、限界は近い。
体勢は崩れ、手元を弾かれ。
そして――――【クイックチェンジ】等のスキルがクールタイムに入った。
しかし、一度目は同時にクールタイムに入ったのに『道化師』側はいまだ健在。
それが勝負の命運を分けた。
『道化師』の一撃が――――直撃した。
この試合で初めてのクリーンヒットだ。
『ふはははははははははははははぁッ!!!』
哄笑をあげながら『道化師』を操る。
武器を変え、弾を込め、間断なく。
撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ…………――――
威力の高い銃弾が『銀装』を穿っていく。
そして――――
『これで1対1だな。我、最強!』
『銀装:サジタリウス』は光の粒子に散った。
この日、初めてリュウセイは
最終戦第二試合。
『MAXIMA』の勝利。
◆
第二試合が終わり、リュウセイは俯きながら小声でつぶやいていた。
その姿に観客は――――
『完封だったな…………』
『なにもさせてもらえなかった…………これは次に響くぞ』
『もう一戦あるとはいえ、負け方が悪かった』
『あれの効果を知らないのも痛かったな』
『対処しようにもあの【伝承顕現】はなぁ…………無理だろ』
『自己バフ系の対処法なんて、さらなる力か技術で潰さないといけないけど』
『マキシマ相手じゃなぁ…………無理ゲー』
『かわいそうに。リュート下向いてんじゃん。心折れたな…………』
などの反応をしている。
その声にマキシマも一部同意していた。
(『リュート』が初心者説が正しいなら、おそらくこれが初めての敗北であろう。それもこんなライラ嬢への挑戦が掛かった大事な試合での敗北…………心が折れてもおかしくない)
その可能性にため息が出る。
せっかく面白い相手が出てきたのにここで潰れてしまうかもしれない、と。
(我はそんな奴をごまんと見てきた。どれだけ上手かろうがたった一回の負けで崩れていくやつらを…………次の試合はもうだめかもしれんな。仕方ない…………なるべく、ショックの少ない負けにさせてやる――――)
「よしOKだ。大体わかった。次いこーか。つぎ」
リュウセイは顔を上げて、次の試合を急かす。
その顔は心の折れた人間の顔ではなかった。
『え?』
「どうしたんだ?そんな死人が生き返ったみたいな顔して」
『え?いや~~…………あれー?』
マキシマはてっきり、リュウセイが負けたショックで再起不能になっていると思っていた。
だが、本人にそんな素振りはまったくない。
むしろ、次の試合を待ち遠しそうにしている。
だから、マキシマは尋ねる。疑問を解消したくて。
『リュートは負けたことはショックではないのか?気にしてないのか?』
「あ?それって煽り?勝ったからって敗者を――――」
『ちがう、ちがうぞ!そうではなく、貴様これが初黒星であろう?ふつう、気にならない?』
「そんなことか。だったら気にすることじゃないな」
そう気にすることじゃない。
だって彼は――――
「イベント始まってから今日まで、百回以上負けてんだからな」
『は?それはどういう意味――――』
「それよりさっさと始めよう」
そんなことはどうでもいい。
それより次の試合を始めよう。
そう、顔に出ていた。
「試したいことがあるからワクワクしてんだ。こっちは」
最終戦・最終試合がはじまる。
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