【お題 創作】 ハイファンタジーのプロローグ・貴方ならお題を見てどう描く??

kou

第1話

 王都の闘技場は、朝陽が鮮やかに照らし出す。

 色とりどりの旗が風になびいていた。

 バルコニーには王族たちが姿を見せている。その傍らに宰相と騎士団長の姿もあった。さらに周囲には貴族や騎士、民衆たちの姿が大勢ひしめいている。

 人々の興奮は頂点に達し、剣術大会の熱気が溢れていた。

 一人の青年が静かに呼吸を整えていた。

 青年は漆黒の髪を靡かせながら、腰に差した剣の柄に触れる。

 名をリオといった。

「余裕の一回戦突破だったな」

 そう声をかけて来たのは剣友であり、共に大会を勝ち抜いてきた相手でもあるアランだった。

 リオは厳しい表情のまま頷いた。

「当然だ。俺の目標はルーヴェントに勝つことだ」

 その言葉に、アランは不敵に笑う。

「傭兵団長か……。偉業の三連覇を成し遂げ、今大会の最優勝候補だな」

 二人が話している間にも試合における大歓声が湧き上がる。

 これで一回戦が終了となる。

「一昨年、昨年と俺は決勝まで進むものの、あの男に敗れた……」

 リオは奥歯を噛み締めた。

 3年前は準々決勝で敗れたのもルーヴェントと対戦したことによる敗北だった。トーナメントを勝ち進めば、今年も決勝で対決することになる。

 リオの胸の高鳴りを抑えつつ、二回戦の準備を進めていた。

 次々と試合が進み、ルーヴェントの試合を観戦するべく退避壕にアランと共に移動した。

 対戦カードは無名の戦士だ。

 だが、油断はできない。

 そんな事を考えつつ、いつまでもルーヴェントが現れないことにリオが苛立ちを募らせていると、驚愕することになる。

 司会者の声が響く。

「大変残念ですが、傭兵団長ルーヴェントは、本大会を棄権することになりました!」

 観客席からは驚きの声が上がり、リオも動揺を隠せなかった。

「 ルーヴェントが棄権だと!? なぜだ……」

 思わず声が漏れてしまった。

 リオの表情を見ていたアランは、彼の肩を叩いた。

「良かったじゃねえか。これで、今年の優勝は、お前のものだな」

 皮肉を込めた言い方だったが、アランの胸ぐらをリオは掴み上げる。

「ふざけるな! 俺は優勝したいんじゃない。ルーヴェントに勝つことだ!」

 殺気立った視線を向けるリオに対し、アランは冷静を保つようになだめる。その瞳の奥に宿った決意を読み取ったからだ。

 その後、試合は滞りなく進行したが、リオの心には常に納得できない感情がくすぶっていた。目標とするルーヴェントが居ないことで勝ち進むたびに、その思いは強くなっていった。

「こんな形で進んでも意味がない。本当の勝利とは言えない……」

 決勝戦に駒を進めたリオの前に美青年が現れた。

 まるで彫刻から抜け出してきたかのような美しさを持つ青年だ。

 彼の瞳は深い碧色で、星空のように輝き、長く艶やかな亜麻色の髪が風に揺れていた。その肌は雪のように白く滑らかで、優雅な動きに合わせて光を反射していた。彼の微笑みは柔らかく、人々の心を和ませ、まるで天使が舞い降りたかのような美しさを醸し出していた。

 名をベアトゥースという。

 何度も大会に出場しているリオだが、聞いたこともない剣士だ。

(初出場だと。しかも、この容姿なら観客受けも良いだろう)

 リオの心は冷めていくばかりだったが、ここまで上がって来たということは確かな実力を持っていることに他ならない。

 リオは柄の感触を確かめてから鞘からロングソードを引き抜く。

 すると、ベアトゥースも応じるようにレイピアを引き抜いた。蜂の針を連想させる細身の刃が輝いている。レイピアが細身の剣とは言え、重さを感じさせない抜手の軽さは目を見張るものがあった。

 レイピアの重量は約1.0~1.5kg。

 それはブロードソードと変わらぬ重量を持ち、しばしば、その刃は切りつけに向いておらず、相手の攻撃を受け止めると折れてしまうというイメージが強いが、実際には骨まで切り込む斬れ味があり、根元付近は肉厚に作られているため、両手剣であっても折られることはないように作られている。

 華奢な見た目に反して非常に攻撃的な剣だ。

 試合開始の合図が鳴り響きリオは飛び出した。

 一瞬で距離を詰めると、横薙ぎに剣を振るう。

 しかし、ベアトゥースの素早い動きで剣尖は空を切るだけだった。彼は前に進み出ると思わせて、身を引き空振りを誘ったのだ。

 すぐに体勢を立て直したリオは連撃を放つ。

 足の踏み一を変えると共に剣を振り上げ、今度は垂直に振り下ろすが、これも避けられてしまう。

 ベアトゥースが反撃に出た。

 鋭い刺突つきが飛んでくる。

 リオは体を捻りながら躱し反撃を試みるが、そこにベアトゥースは、右肩、左脇、右太腿と三連撃へと繋げて来る。

 リオは後ろに跳躍して距離を取った。

 二人の距離は波が引くように開く。

 リオの呼吸は戦慄で乱れ、震えた。

 ベアトゥースの剣は的確だ。

 右肩は剣の振りを制限することを意図し、左脇は体勢を緩め、さらに集中力を向けて乱すことを狙い、右太腿は機動力を奪うことで完全に優位に立つことを目的としている。

 これらの攻撃はベアトゥースの巧妙な戦術と卓越した技術を示しており、リオの動きを確実に封じるための計算されたものだ。

 リオは、呼吸を整え冷静さを取り戻すと共に集中を高めた。

 集中力は、注意が他にそれないようにする能力ではなく、他のことに注意がそれたことに“気づき”、注意を“戻す”ことができることを指す。これは戦いにおいて重要な要素であると言える。

 相手のわずかな動作や呼吸の変化などを感じ取り、次の行動を予測することで、攻撃を防いだり、逆に攻撃に転じたりするのだ。

 そして、それが生死を分けることになる。

 ベアトゥースはレイピアを片手で握り、人差し指を鍔にかけ剣尖を向けている。身体は半身にし、リオからの斬撃箇所を狭める。腰を落とし、重心を落とした姿勢から放たれる刺突つきの一撃は、想像以上の速さと威力を発揮することを意味する。

刺突つきの一撃を狙って来る……。なら俺は、こうする)

 リオは深く息を吸い込むと、再び間合いを詰める。慎重に見極めながら斬撃を上から放った。

 刀身を当てるのではなく、剣尖のみで斬る最小にして剣の持つ最大射程を活かす。

 空気を切り裂くような鋭さで繰り出された剣戟を、ベアトゥースは冷静に見切る。

 最小の動きで身を引く。

 そこにリオの剣が鋭く落ちる。

 疾さは光に変換されていた。

 一拍し砂埃が左右に広がり、ベアトゥースの髪を揺らした。

 力任せな粗雑な剣技ではないことは、剣尖が地に斬り込むことなく寸前で止められたことからも分かる。腕力だけで剣を操っているのではない、鍛え上げた足腰の強さは勿論、胸筋と背筋を駆使した上での繊細な動きが感じられる。

 さらに踏み込みつつ下段から斬り上げてくるリオに対して、ベアトゥースはカウンター気味に刺突つきを繰り出す。

 リオは避けるが、わずかにレイピアの剣尖が頬を斬り、血が弾ける。

 痛みをアドレナリンの分泌によって無視しながら、すかさず追撃を放った。下からの斬り上げる剣を脇に抱えつつ、一歩を踏み込んで刺突つきを狙う。剣尖による刺突つきではなく、刀身を使っての刺突つきの狙いは、横薙ぎへの二ノ太刀を狙ったものだった。

 その瞬間、ベアトゥースの瞳が一層鋭く光った。彼の動きはまるで風のように軽やかで、レイピアの軌跡は美しい曲線を描いた。

 ベアトゥースはリオの刺突つきをレイピアの鍔元を使って、自身の外側に反らせる。細身でありながら蔦が絡まるかのように柔軟かつ強固な強度を持っていた。そのまま流れるように手首を返して、リオのロングソードを斜め下に落とす。

 リオは完全に剣の軌道を変えられてしまった。

 ベアトゥースの動きには一片の無駄もなく、その剣技はまさに洗練の極みであった。一挙手一投足に至るまで、彼の動作は緻密であり隙がなかった。

 次の瞬間、リオは自身の首にレイピアの刀身が当てられていることに気づいた。

 目で追うまでもない。

 それほどまでに速かったのである。

 一瞬の出来事だったからこそ、観客席からは歓声が上がることはなかった。

 リオの驚きが冷たい汗となって額と首筋を流れた。

「――俺の負けだ」

 リオの口から、その言葉が吐かれると試合終了を告げる鐘が鳴った。

 観客たちはようやく我に返り、大歓声を上げた。スタンディングオベーションは、ベアトゥースの美しさと技量に心を奪われた声が響き渡る。

「優勝はベアトゥース! その剣技は風の如く疾く、流水の如く滑らかで美しい!」

 司会者の声が響き渡った。

 リオは苦しみながらも、敗北を認めざるを得なかったが、ベアトゥースの勝利は明白だった。彼の心には、悔しさとともに美青年の技量に対する敬意が芽生えていた。

 互いに納剣すると、リオとベアトゥースの手を取って握手を交わす。

 リオの目には新たな決意が宿っていた。

「俺に新たな目標ができた。必ず君に勝ってみせる」

 ベアトゥースは、その端正な顔立ちに優雅な微笑みを浮かべた。

「楽しみにしている」

 決勝戦が終わり、人々が歓喜する中、一人の男が観客席に姿を見せた。

 短く刈り込んだ黒髪と、刃物で削り取ったような険しい顔立ちを持つ大男である。その逞しい背中には巨大な大剣がしっかりと背負われ、まさに戦場で鍛え上げられた戦士の風格を漂わせている。

 傭兵団長ルーヴェントであった。

 その表情は明らかに不機嫌だ。

 その原因は間違いなくベアトゥースにあった。

 棄権せざるを得ない事情があったことは致し方がないにしても、この大事な試合を欠席した挙句、達成できたであろう四連覇を逃すことになったからだ。

「あの野郎……」

 悪態をつくルーヴェントだったが、そんな彼の気持ちなど知る由もないベアトゥースの表情は明るい。

 人々は、美しい青年剣士の優勝に興奮するのだった。

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