第六話 「いらない」

「お前、誰だ。明日香をどこにやった。」

「……なんのこと、姉さん」

「母さんや父さんを騙せても私は騙されない。明日香は私の事を”姉さん”なんて呼ばない。」




「ーー効き目が甘かったかな。そうだよ、私は明日香じゃない。」




深夜、明日香と明日香の姉は部屋で話していた。いつものように…いや、何時もと違い随分不穏な空気だ。姉は殺気がでそうな目で妹の形をした何かを睨みつけている。


「明日香を返せ。」

「それは無理な相談だ。明日香はもうこの世界にはいないよ。魂ごと消滅しちゃったからね。」

「お前の仕業か。」

「ふふふ、それはちょっと違うかな。噂の力だよ。」

「……噂?」

「そ、噂。噂はね、時に未練ある幽霊に強大な力を与えることもあるんだよ?乗っ取り幽霊って噂、知ってる?」


「…母さんが言ってたな。あの噂通りになったってことか?でも、だからって明日香には何の関係もねえじゃねえか。なんで明日香なんだよ!明日香がお前になんかしたのか!?」




「本気で言ってるの?」




さっきまでと明日香の形をした何かの雰囲気がガラリと変わった。ゾッとするような視線を姉に向けている。その瞳の奥には明らかな憎悪が浮かんでいた。姉は地雷を踏んだのだ。


「ふふ、この子は貴方に何も言わなかったってことだね。所詮あなたたちはそれだけの関係だったってことか。」


「どういう意味だ。」


「別に、貴方の片思いだったってこと。明日香のせいで私は死んだ。まあ、明日香はそんなこと知らないだろうけど。でもーーあの子はれっきとした人殺しだよ。私だって、何もしてない一般人を殺すようなことなんてしない。貴方も、人殺しの妹の為に無理する必要なんてないんだよ?」


「……無理ってなんだよ。」


「あなたみたいな妹思いの性格なお姉ちゃんが、妹が死んだって言われてるのに大人しく私と会話してるなんて、可笑しい話。貴方は冷静な性格じゃないみたいだし。だったら、答えは一つ。貴方、さっきからすっごく頭が痛いんじゃない?」


「……」


「包丁を刺され続けてるような感覚じゃない?だって、噂の力は世界の全てを塗り替える。それを霊力も大したことない貴方がなんの影響もなく無事な筈がない。現に今日の朝は貴方、明日香の事もちゃんと中一だと、雪ちゃんや夏美ちゃんの友達だと思ってた。だったら、違和感を持ったのはついさっき。私が部屋から出てきた時だよね?それなら、貴方の記憶もそろそろ変化するころだね。もう、記憶は消えちゃうよ?そして貴方は私の事を、とーっても大切な妹を殺した仇を妹のように接する。あはっ、可哀想。」


「そうと決まった訳じゃねえだろ。」


「いいや?決まってる。それは絶対だよ。」


「それでも、私はお前を敵だと心に刻む。絶対に、妹を取り戻す。いくらかかってでも、絶対だ。」


「なんで、そこまでするの。貴方の妹は人殺しなんだよ?そこまでする価値なんて「妹だ。」!」





「あいつは大切な私の妹だ。それ以外でも以下でもない。」





そう言い残して、明日香の姉は身を翻して去っていた。その後ろ姿を眺めていた明日香の偽物の瞳からツーっと涙が流れた。


「あーあ。この子はとっても恵まれてるな。ーー羨ましい。私にも、その愛が欲しかった。それさえあれば私はこんなことする必要なんてなかったのに。












































ーーーーーーーーーーーー邪魔だなあ、新しい人生で私を愛さない人間家族なんて。」



ニヤァっと明日香の偽物は怪しく嗤った。





■□■□■□■□■□■□



ここまでは前編です。後編は気分が乗ったら書こうと思います。

絶対(多分)書きます。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!

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あなたは口にしたその「噂」に、責任が持てますか? @kumanonn

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