第15話
「ヒカリ!?」
ヒカリの体を走った銀の光は、消えずにそのまま広がって、ヒカリを包んだ。
《ほうほう。ヒカリや、おぬしはそれを望むか》
「カミサマ? どういうこと!?」
《勇真の気持ちが、ヒカリに伝わったようじゃ。最後の変化をして見せたいそうじゃよ》
「最後の変化?」
《そうじゃ。勇真が望んだ通り、カッコいい
強くてカッコいい
《ただし、この変化を見せた後は、ヒカリはただのヤモリに戻る。
勇真は飼育ケースを見た。光に包まれたヒカリが、まっすぐにこちらを見ていた。
勇真はグィと手の
「もちろん! ヒカリはぼくのヤモリだ! どんな姿でも、これからもぼくだけの特別だよ!」
ヒカリがククゥと鳴いた。体の光が、パアッと大きくなって部屋を照らす。
まぶしくて
飼育ケースの中で、
青味がかった灰色の体は、頭から背中に美しくトゲトゲが二列に並んでいる。
パサパサと軽い
「すごい……、ドラゴンだ。カッコいい! ヒカリ、超カッコいいよっ!」
カカカ、とカミサマが笑って、勇真の手からポーンと玉が
《すばらしいっ! これは久しぶりの最終変化じゃ! 何年ぶりかのぅ。ワシもうれしいわい!》
「カミサマ?」
《勇真よ、これはワシの最後のサポートじゃ、せっかくドラゴンになったのじゃから、
「飛ぶ!?」
玉が空中でくるくると回る。口を開けて見上げる勇真の前で、再びヒカリに銀の光が集まって、大きく大きく、大きく
目を開けると、勇真は
「ええーっ! どうなってるの!?」
《カカカ、勇真よ、今日まで楽しかったぞ。さよならの前に、おぬしの住む世界を見せてやろう》
“さよなら”と言われて、勇真は胸がキュッとなった。何か言おうと思ったけれど、ヒカリの飛ぶスピードがグンと
ものすごい
深く青い海の中に、光を
ふと見れば、すぐ横をトンボが飛んでいる。それを、すごい勢いで前を横切ったツバメが
一羽のヒナが、巣から落ちた。走ってきたノラ
夏の短い間、力いっぱい鳴くセミ達。力つきて落ちたセミを、アリ達が巣に運んでいく。
ほかの
《そうじゃよ、勇真。生きているものは皆、何かの
それが、生きるということ?
知らない内に、
《そうじゃな。だからこそ、自分の生命は自分だけのものではないと、忘れてはならんよ。何かの生命を受け取り、またいつか、何かの生命のためになる。そのために、生きている間は関わる
関わる
勇真は、ヒカリの背を優しくなでた。ヒカリは少しだけ首を後ろに回し、うれしそうにククゥと鳴いた。
ねえ、カミサマ。ぼくができる
ホッホッ、とカミサマは笑う。
《おぬしはもう、それを始めておるよ、勇真》
バサッとヒカリが羽ばたいて、世界はグルングルンと回転する。目が回って、ぎゅとまぶたを閉じた勇真の耳に、声が聞こえた。
『お〜い、
『私がお母さんよ。勇真、早く生まれておいで』
母さんの声も聞こえる。ぼくがお
ヒカリの背中にいたはずなのに、いつの間にか風はなくて、温かくて、とてもホッとする。この暗くて温かい場所は、母さんのお
『勇真。勇真、私たちの大切な子。大好きよ』
うん、ぼくも、父さんと母さんが大好きだよ……。
ああ、そうか。
ぼくは、こうやって
「勇真っ!」
母さんの声と共に、体をゆすられて、勇真はハッと目を
「……母さん?」
「勇真、なんともないの!?」
「え?」
「こんなところで寝てたの? 母さん、勇真が倒れたのかと思って……」
勇真は自分の部屋の真ん中で、
「本当に、大丈夫!?」
「大丈夫だよ、ごめん、
「もう〜、びっくりさせないでよ」
勇真のすぐ横には飼育ケースがあって、
そして、飼育ケースの側には、割れた“
それでも。
夢じゃない。
きっと、全部、夢じゃないよね。
「母さん」
ようやく安心したように立ち上がった母さんに、勇真は言った。
「ぼくを生んでくれて、ありがとう」
母さんは顔をくしゃっとさせて、勇真をギュウッと
○ ○ ○
九月一日。今日から二学期が始まる。
勇真は、登校前に学校に持って行く荷物を確認する。宿題を入れた
自由研究には、“
「ヒカリ、ぼくは今日から学校なんだ。部屋にいない時間が多いけど、ちゃんと帰ってくるから、心配するなよ」
飼育ケースの中に声をかけると、
ツルンとした体のお
勇真はランドセルを背負って、
あの日カミサマは消えてしまったけど、
「……行ってきます」
《おうおう、行ってくるがよいぞ》
勇真は
「カ、カ、カミサマッ!?」
《そうじゃ! ワシじゃ! カミサマじゃ!》
「なんで!? さよならじゃなかったの!?」
《ん〜? ほら、来年の夏休みまで、ヒマじゃな〜と思っての……》
勇真は
「もしかしてカミサマ、
《さっ、
「ぼくは
《お……おおう……? そうだったのか……?》
カミサマが弱く言うと、勇真は落とした
「
《なぬーっ!?》
「あ、
バタバタと部屋を出る勇真は、入口でふり返って言った。
「もうだまってどっか行かないでよね!」
バタンと閉まった
○ ○ ○
学校の校門を入ると、
「おはよ〜っ!」
「おはよう、勇真!」
勇真は手をふり返すと、
「おはよう! ねえ、二人とも聞いてよ!」
ぼくは、今日も生きている。だから、また新しい何かを知れるんだ。
ワクワクする胸の内を感じて、自然と笑顔になった勇真を、明るい太陽の光が照らしていた。
《 おわり 》
夏休みの自由研究は謎タマゴ 〜カミサマと“いのち”の学び三十日〜 幸まる @karamitu
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