ライジング
1
薄暗い空が、夜から朝へと徐々に色を変えていく。この時間が俺は結構好きで、
風で若葉がそよぐ。風は強さを増し、砂埃を巻き上げる。その中に、薔薇の香りが僅かに混じるようになっていた。
2
「やっぱり。僕を呼び出したのは君だったんだね、鬼頭くん。
大人しく童貞と一緒に、ヒーロー気取りも卒業しておけば良かったものを」
紫薔薇がやってきて、メール画面を見せつける。内容は、ダークライト批判と、日時・場所を指定した決闘の申込。いうまでもなく、俺がダークライト公式サイト宛に送りつけたものだ。
俺は鬼の仮面を被り、紫薔薇の正面に立つ。
「あいにく俺は純愛でね。初めては愛する女性に捧げるって決めてんだわ。
紫薔薇、お前の正義を俺は認めることができない」
「童貞臭いことを。ハハッ。
そうだ。あそこのビルから全裸で吊って、配信してやるよ。
世界中が見るぞ。望み通り、1人くらい君を愛する女性も現れるだろう。感謝したまえ」
「祖父ちゃんが言ってた。
『大いなるチンコには、大いなる責任が伴う』。お前にはそれがない。暴力を振るいたいだけの傲慢野郎だ」
「僕の"
『僕の身体以外の時間を停止する』、無敵の
俺の挑発に、紫薔薇から薄笑いが消える。
正直言って、勝てる自信はなかったし、祖父ちゃんの言葉だってすっかり忘れていた。
思い出させてくれたきっかけは、チンコ松の濁流の中の一レスだった。
『助けてくれてありがとう』
誰かも分からないし、釣りかもしれない。だけど、その言葉はスマホの中で光り輝き、俺をもう一度立ち上がらせてくれた。
誰かの役に立った。無駄じゃなかった。そう思わせてくれた。
そして、その誰かを守るためにも、紫薔薇を止めないと。勝てるかどうかは関係ない。いつだって行動する意思ってのが大事なのだ。
双方の股間が光を放ち、装甲を纏い始める。修行の成果か、先に
思わぬ勝機に、緊張が緩む。その油断を、紫薔薇の放った言葉が鋭く刺した。
「鬼頭くんのご家族は今ごろ元気かな?」
なん…だと…?
俺の思考が0.2秒止まり、紫薔薇の高笑いが響く。世界が、紫の光に包まれた。
「"
3
時間停止された筈が、謎の水色空間にいて身体も動くもんだから、はてな?死んだ?とアーメンしていると、背後で誰かの声がする。
「安心してください。オデの"
発光仮面、いや、鬼頭さん」
声の主は、"いつの間にやら出現する"でお馴染み緑魔くんであり、
『緑は"結界系"、』
困惑している俺に、今度は「エーロエロエロw」と独特な笑い声。
「拙者らも、
「"エロ"の江口!?」と驚けば、「"エロ"の江口…。それは、教室でのAV観賞が原因で付けられた悪口…。真の名は、"
『黄色は"感覚系"、』
4
「オデの"
見えるだけで干渉はできず、攻撃するには一度解除する必要があるっす」
なるほど。たしかに紫薔薇の様子が見えるが、彼が俺たちに気づく様子はない。
隙が一瞬あれば、勝てるかもしれない。策はある。
「ほう、隙とな。ならば今が絶好機やもしれませぬ」
股間の光り具合を見るに何かを感知したらしい江口が、太鼓判を押す。
出陣しようとする俺を、「一つだけ」と江口が引き留めた。
「拙者らは、
だが、鬼頭氏は違った。拙者らと同じ一生童貞なのに、毎日誰かを救っていた。戦っていた。
格好良かったでござる。勇気を貰った。
拙者らも、鬼頭氏みたいな光を与える存在になりたいのでござる」
「オデも」
勃ち待ちしてから、緑魔くんが呟いた。
「"
5
「仲間がいたか。
しつこいが何度やっても無駄さ。
全員まとめて捻り潰してやる」
突然現れた俺達に、紫薔薇が中指を立てた。俺も負けじと反論する。
「無駄じゃない。
祖父ちゃんは言ってた。
俺達は
「黙れ!"時は淫乱れ…」
「ワン!!」
どこかで犬が吠えた。それだけで紫薔薇は激しく
紫薔薇の異常な反応に、俺は時間停止ものAVを思い出す。
『時間停止中なのに動き回る犬の映像にツッコミを入れつつ、』
そうか。時間停止を無視できる犬は、"時間系"能力者の紫薔薇にとって、最大の天敵。
そして、俺にとって犬は──。
『なんなら、パブロフの犬を見ても勃起可能だぜ』
俺にとって犬は、勃起を促進させる最強の援軍!!
不意を突かれ、紫光がまばらに途切れる紫薔薇とは対照的に、俺の股間は金剛石の如く硬度を増し、神々しい赤に光り輝いていた。股間に太陽が顕現する。
歯軋りする紫薔薇よりも一瞬早く、俺が天高く叫ぶ。
「"
時が止まる。
6
目を開くと、紫薔薇が尻を突き出し、地べたに這いつくばっていた。白眼を剥き、口から涎を垂らした表情からは、普段の超常的な輝きはまるで失われ、醜悪で無様そのものだった。
"
息も絶え絶えに、紫薔薇が怒声を飛ばす。声を出すだけで、身体がビクンと震えていた。
「なぜだ!!僕の"
「紫薔薇!!お前が自分で言ったんだぜ?
『お前の身体以外の時間を停止する』ってなァ〜〜ッ!!
だから俺は、最大出力の"
その後にお前が時を止めようが、勃起して発光してさえいれば俺の
悔しさで、紫薔薇は地面を強く叩く。反動で紫薔薇の口から嬌声が漏れた。
『
つまり、裏を返せば──。
俺は指で
「
裏を返せば、俺の"
もう…時は
7
「クソォ!あん♡クソォ!あん♡くっ…ころ」と悪態をつく紫薔薇を祖父ちゃん軍団に引き渡し、ふぃ〜やれやれだったぜと一息つこうとする俺に、祖父ちゃんが頭を下げた。
「すまなかった。
辞めてもいいんだぞ?」
俺は「うーん」と思案し、祖父ちゃんに缶コーヒーを差し出す。
「顔を上げてよ。そりゃ、始まりはモテるためだけどさ。
今は好きなんだ、ヒーロー活動。朝の缶コーヒーも最高だしさ。
だから、発光仮面は続けるよ。それにさ、俺から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。
祖父ちゃんは無言で缶コーヒーを啜り、「たしかに最高だな」と白い歯を見せた。
俺はフヘヘと笑って、あの犬はスターだったのかもなんて考える。また捜索を再開しよう。今の俺なら、何処だって高速で探せる。きっと見つけ出せる筈だ。
差し込んだ朝日が眩しくて、顔が自然に綻んだ。暖かい陽光が、俺達を優しく包み込む。
長い、長い夜が明けた。
8
「キャー」の悲鳴が上がり、俺は高速で街を駆ける。
トレンチコートに身を包み、鬼の仮面がギョロリと睨む。ピカピカ輝く股間から真っ赤な閃光、悪・即・斬。
人呼んで、"
あゝ、発光仮面。あゝ発光仮面。発光仮面は今日も征く。街の平和を守るため。皆んなの笑顔を守るため。ってな感じでね。
──発光仮面 WILL RETURN.
"発光仮面"参上!! 真狩海斗 @nejimaga
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