小粋な冗句の数々はセンスが合わず、きわめて冷めた目で読んでいた。が、一万字足らずのヒーローオリジンとは思えない濃厚な読み味には息巻く。満足感と疲弊感。馬鹿馬鹿しさとは芯を通してこそ価値あるものだ。ディックのようにね。ヒーローオリジンなのにトリロジーじゃないのかよ、という部分が諧謔としてはいちばん面白かった。ぶつかり稽古さながらのルビ芸がやかましくてボリューミー。感性のままの殴り書きのようでワンアイディアで出汁を出し尽くす気概が感じられたのは素直に良かった。