つかみどころがなく、それでいてとても心地よく

一行目からすごいと思いました。
主人公が小さくなる話というのは、よくあるものですが、淡々とした文体で話が続けられていくのはとても良いものでした。
途中で、知らない本――〈アドルフ〉について語る部分、作中作にとどめておくのがもったいないくらいで、ぜひとも読んでみたいと思います。犬の背の毛並みの中にできる街なんて、とても素敵です。
この作品の冒頭にせよ、〈アドルフ〉にせよ、様々な物語の世界を彷徨う旅人なのだろうなと思って、「迷子のなり方」というタイトルを勝手に腑に落としてしまいました。
この彷徨う旅人という印象は、その後を読んでいるときもずっと感じられるものでした。
『アドルフ』をもって、元の場所に戻ろうとしても、戻れない、そしてまた知らない町に足を踏み入れていく。
幻想的で奇妙な夢のようにふわふわとしつかみどろこがなく、それでいてとても心地よい読み心地でした。