そして、君は炭素の糸になった。

 軽く、強靭な糸になった君は、引っ張られたり、擦られたり、熱せられたりと、さまざまに調べられた。

 石炭の君はさらに掘り出され、糸に加工され、互いに編み合わされる。

 そして見知らぬ素材、見知らぬ金属たちと一緒に組み合わされ、ひとつの構造物として組み立てられた。

 その後もヒトは定期的にやってきては何かをしていたけれど、君は強度の担当で、動作の担当ではなかったから、あまり注目されたとは言えない。ヒトの訪れを時間にして、君はしばらくを過ごした。ある時、全体的な傷の有無や大きさの変化、ズレなどを計測され、君は構造物と一緒に運ばれて行った。

 ヒトの暮らす土地から離れ、海に面した、周りに何もない平たい場所で、君は格納された。

 平たい場所にそびえたつ巨大な三本の円柱の、最も長い真ん中の一本。

 その一番上に。

 暗く静かな場所。いままでと違うのは、何かの底ではないということ。

 ところで石炭だった君は、掘り出される過程で爆発したことがある。

 ある日、それによく似た衝撃があった。力強い爆発の気配だった。

 爆発は君を格納した円柱の底で起こった。

 爆発は制御されており、君では到底なしえないエネルギーが君たちを押し上げる。君にも些細な圧がかかる。

 爆発の気配は全部で三回感じられて、最後の一回で君たちを格納する壁が割れ、開いた。

 君に光が差す。

 最も強いものは、私の光だ。

 次に強いのは、ついさっきまで君がいた星の光だ。私の光を青く跳ね返している。

 どちらの光も、君を後ろから照らす。

 君は今、ヒトの手が作った探査機の一部として、再び宇宙に放たれた。

 光だった君からすれば、ずいぶんとのんびりとした速度だろうけど、着実に私から離れていく。

 そうやって時間をかけて、いずれ私の光も及ばないほど遠くへと、君は行くのだ。

 どこからどこまでを「ひとつの君」とするのかはとても恣意的なところだと思うのだけど、再び放たれた君に、最初に君を放った星としてはこう言っておきたい。


 行ってらっしゃい、良い旅を。

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帆多 丁 @T_Jota

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