炭
弱く頼りない橙色が、ずいぶんと低い所に、点々と規則的に並んでいる。
とても固く尖った物が君に振り下ろされ、君は砕かれて運ばれた。
地の底から運び出されて、再び恒星の光を受けた。
地上の様子はまったく変わってしまっていた。君が森だった時とは空の色も大気の組成さえもわずかに異なる。そして、君に触れるのは同じ種類の動物だけだった。土の底から掘り出したのも、運んだのも、より分けたのも、すべて同じ、ヒトという動物だった。
石炭、と君は呼ばれた。
広大な森だった君は、地中で熱と圧力を受け続け、広大な炭素の岩盤となっていた。
君は少しずつ削られて持ち去られた。
君は燃やされた。君に含まれた膨大なエネルギーは赤く輝く熱になった。
熱の力は水を沸かし、蒸気で伝達されたエネルギーは紡績機を動かし、船を動かし、汽車を動かした。
また、石炭の君はガスとなり、夜を照らす光となった。ヒトが暖を取る火になった。
また、石炭の君は加工され、より高温で燃えるようになり、鉄を溶かす炎となった。
君の熱はやがて発電機のタービンを回すようになり、産み出された電力はありとあらゆるものに化けた。
石炭の君はそうやって消費され、減っていった。
閉じた窯の中で君は何度も燃え尽きた。
いまの君の時間はヒトの時間にそっている。
広大な炭素の岩盤である君も、時間が経ってずいぶん小さくなった。君も無限にあるわけではないから、いずれ石炭としての君はすべていなくなるだろう。
また君は削られて持ち去られた。
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