青黒い揺らぎ。

 水底みなそこたる君に向かい合って揺らぐ弱々しい色彩は、紛れもなく光。

 気まぐれに現れては消える揺らぎは君の新しい時間。かつての君よりはるかに遅く、今の君より遥かに早く流れる時間。

 その揺らぎは緩やかに、数百億回の明滅を繰り返して近づく。強くなり、弱くなり、消滅し、再び現れ、幾億と。

 光が強まるにしたがって、君を押し固めた圧力は緩んでいく。

 なぜなら君は、星の奥底から静かに押し上げられ、たわみながらせり上がっているからだ。

 君が、光に近づいているんだ。

 いま揺らぎは君の広さよりはるかに広く、黄金から蒼、赤銅から藍、そして銀と紫を帯びて、最初の弱々しさを忘れたかのように踊る。

 色は確固とした強さをもち、あれほどみっちりしていた水は君の前からいなくなり、代わりに君を覆うのはどこか懐かしい窒素。そしてまだ電子だったころに水から切り離した酸素。

 かつて君を放った恒星が巡っているのがわかるだろうか。君の同胞が分厚くなった大気にその一部を青く散らしながら、君の上に届き、跳ね返り、君は光る。

 静かで遅かった時間はいまや慌ただしく賑やかで、君を覆う緑の苔がぷちぷちとした根を君に張る。水の重さに固められた君を、苔の根がかすかに割って、君の一部は細かな粒になる。

 雲がかかる。雨がふる。雨の去った向こうに虹がかかる。

 苔が枯れ、あらたに生え、繰り返すうちに積もり、君は混ざり合って大地になり、大きく複雑な混合物として時を過ごす。

 そしてまた、君に触れるものが新たに現れた。

 苔の根よりも確固とした先端が割り入って、水と共に君の一部を吸い上げる。こんこんと管を昇った先で君は、かつて君がそうしたように、電子に生まれ変わった同胞によって切り離され、シダの一部となった。

 君は茎であり、葉であり、根であり、胞子であり、そして枯れてまた混ざり、土としての君はシダとしての君でもあり、それを食む蟲でもあり、君はシダの平原として過ごし、やがて硬い根と皮を持つ樹木がやってきて、君はひとつの森となった。

 土の時間、苔の時間、シダの時間、樹木の時間、蟲の時間、星の時間、様々な時間を併せ持って、君はどんどんと広く、複雑で、豊かになっていく。

 空からやってくる同胞たちを受け取って、君の営みは少しずつ積もって行く。けれど、君のいる星が三千万回ほど回ったあたりで、樹木は徐々に枯れ始め、森としての君は明確に終わりを迎えた。

 全ての雨は雪になった。降った雪は樹木の時間がどれだけ過ぎても溶けなかった。

 星は氷河の時代に入った。

 光は届いていても、君は低温に適応できなかった。

 氷の下で硬く凍り、君は君自身の重さに潰れながら、また緩慢な時を過ごす。以前は水の底。今度は土の底。上から圧を、下から熱を受けながら君は深くへ沈んでいく。

 やがて細かな振動があり、君を照らした光があった。

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