帆多 丁

 どこからどこまでを「ひとつの光」とするのかはとても恣意的だと思うけれど、そうだね、君はひとつの光として放たれた。

 光すなわち時間、という立場に立つなら君は全てを同時に体験するのかもしれない。ただ、語るにあたっては、どうしたって順序は必要になってしまう。

 ともかく。

 君は光だけどまわりは真っ暗だ。これは君の強さの問題じゃなく、ただ君を跳ね返してくれる物が何もないからだ。

 今の君はもしかしたら、有って無いようなもの。いるのにいないようなものかもしれない。そんな君はひたすら真っすぐに長い旅をした……と言いたいのだけど、実際には八分ちょっとで転機が訪れる。

 星だ。水のある星だ。

 星を薄い膜のように包んで元気いっぱいにブンブン動き回る窒素をすり抜けて、君はとした水へと差し込む。そこで君の一部は青く散乱し、別の一部は深みの黒と混ざり合い、残りの君は水のうねりに揺られる無数の藍藻らんそうの中へ飛び込んだんだ。

 そして君は生まれ変わる。光から電子へ。電子の君は水から酸素を切り離し、空気から炭素を取り出し、それらを結合させ、藍藻を形作る有機物として安定した。

 君を受け入れた無数の藍藻は分裂し、増え、盛んに酸素を吐く。

 けれど、ほどなく藻の命は尽きて、深い水底へ君と共に沈んでいく。

 また真っ暗だ。君はもう光ではないし、光だったとしても、分厚い水の壁に阻まれてどこへも行けない。この星に差し込み、無数の藻に飛び込んだ君はもろもろと崩れ、暗い水底に積もって、星で最初の土になった。

 あとからあとから水底に積もる君たち。その底の君。宇宙で最も速かった君は今、土くれとして星の一部となる。

 暗い静寂しじまに動かず、水の重さをうけ、次々に積もり来る同胞たちと共に、君は再びひとつになる。

 岩だ。

 変化すなわち時間という立場に立つなら、君の時間はとてもとても遅い。

 圧力はあるのが当たり前で、岩になるほど詰まってしまえば、もう何の影響もない。

 進んでいることがわからないほど緩慢な君の時間。

 何もかもが止まったような時間は、ある時加速する。

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