第5話

メイドのアリアにより学科の内容を1年間みっちり詰め込まれた僕は学校卒業レベルまでの内容すら解けるようになっていた。

「アリア、いい加減魔法の練習しちゃダメかな。」

僕は勉強はもううんざりだというように聞いてみた。

「そうですね。学校レベルの内容はもう終わってしまったんですよね。これ以上は専門的な内容になってくるので私はいいと思うのですが奥様がお許しになるかどうか・・・。私のほうから伝えておきますので今日はこれで終わりにしましょうか。」

アリアはそう言うと立ち上がりイヴリースの元へ向かった。

「奥様。失礼致します。」

アリアはイヴリースの部屋に入るとレクスの今後について相談した。

「レクス様ですがすでに学校で習う範囲の座学は修了しました。今後はレクス様の魔法の研究に充てても問題ないものと思いますが如何しましょう。」

「たった1年で3年分の授業が終わるとはあの子の魔法の探求心は目を見張るわね。」

「はい。本当にそうですね。しかしそれが心配で...」

アリアはなんでも吸い込むスポンジのようなレクスに不安を覚える。

「目を離したらどこか遠くに行ってしまいそうな、そんな不安があります。」

「そうなのよね。アルにも相談しているのだけれどどこか生き急いでいるように見えて仕方ないの。」

この家に来てからレクスは教えるそばから吸収し続けさらには自己流で魔法を研究して本当に底が見えない少年だった。極めつけは1年前のレクスによる自己流魔法のアースキャノンである。あれを見たときは正直震え上がった。若干9歳にして戦略級魔法とも言えるレベルの魔法を放ったのだ。魔力無限とはいえ出力が他の魔導士に比べて数分の1程度というのだから更に驚きである。

レクスが言うには既存の魔法の詠唱では数分の1の威力しか出せないが自分なりに考えて一つずつ魔法を重ねていくと威力が乗算されるように上がるとの事。

同じことをイヴリースがやろうとしてもすぐに魔法が霧散してしまって再現することはできなかった。

「それでレクス様の事ですがこれから先はどうしましょうか、昨年魔法禁止を言い渡してからは真面目に勉学に励んだと思います。」

アリアはレクスにお願いされたようにイヴリースに提案した。

「そうねぇ反省しているならいいのだけれど。次になにをしでかすか怖くもあるのよね。」

前科がある分少し不安になる二人。

「はぁ・・・仕方ないわね。アリア。1年ほど任せてもいいかしら。」

イヴリースは覚悟を決めたように立ち上がった。

「さすがにそれはアルフレッド様もお許しにならないのでは?」

「仕方ないじゃない適当にごまかしておいて頂戴。碌に帰ってこないせいで家出したとでも手紙を送っておいてくれる?」

「仰せのままに。ご無理はなさらないように。氷災の魔女様。」

意趣返しでもするかのようにイヴリースを二つ名で呼んだ。

「ふっ。今回は許すわ。明日早朝に出発することにするわね。あの子の準備をよろしく。」

「かしこまりました。後の事はお任せください。」

話し合いが終わると二人は部屋から出ていきイヴリースは地下室へ向かった。

「またこれを使うことになるとはねぇ。もう引退したつもりだったのだけれど。」

そう呟きながらイヴリースは現役のときに使用していた装備を取り出した。

「アリアは本当によくできた子ね。この子たちの整備もしていてくれるなんて。」

埃一つなく磨かれた杖に洗濯したてのようなローブ、インナースーツなどの装備が仕舞われていた。


次の日の朝それらの戦闘服に着替えるとレクスを連れて家を出た。

「母様。そんな恰好をしてこれからどこに行かれるのですか?アリアの授業もあるのですが・・・。」

今日もアリアと授業をすると思っていたレクスはいきなり母に連れ出され困惑していた。

「アリアの事は気にしないでいいわ。これから行く場所は付いてからのお楽しみよ。まずはあなたの装備を整えなくちゃね。」

幾ぶりかのレクスとの買い物に心躍らせながら領都の顔なじみの店へ向かった。

「久しぶりねゼファー。相変わらず暇そうね。」

イヴリースは鍛冶屋に入るなりカウンターで武器を磨いているドワーフに話しかけた。

「ほっとけ氷災の。急にきて何の用だ。純魔のお前には剣も鎧も必要ないだろうに。」

ドワーフのゼファーは迷惑そうに嫌味を言った。

「本当に減らない口だわねこのクソジジイ。その奥の炉ごと氷漬けにしてあげましょうか。」

「それだけは勘弁してくれ暇でも炉と金槌はわしらドワーフの命じゃぞ。それで今日は何の用だ本当に。冷やかしなら帰れ氷災だけにな。」

脅されたというのに更に煽るゼファー。

「やかましいジジイだわ本当に。この子に近接用のナイフを用意してもらえるかしら。」

「なんじゃその坊主はどこで引っ掛けてきたんじゃ?好色魔女め」

「そんなんじゃないわよ。私の息子よ。」

ゼファーに息子のレクスを紹介すると数秒の間が空き

「なんじゃと?お前に息子じゃと?冗談も休み休み言え....は?本当に息子か?」

ゼファーの反応に対し真顔の二人を見るとやっと信じたようだった。

「やっと信じた?ならさっさとナイフを用意しなさい。ミスリルね。」

「わぁーったよ。わっぱ、持ってみろ。」

そう言うとレクスにナイフの柄を差し出した。

「持った感じはどうじゃ。違和感はないか?」

レクスはナイフを握ったり持ち方を変えてみたりするが長年共にしたかのように手に馴染んだ。

「すごいですねこれ。手に吸い付くようだ。」

「当り前じゃろわしが打った武器じゃ。それじゃイヴリース用は済んだなさっさと帰れ」

ゼファーはナイフを渡すと虫でも追い払うかのように手を払ってイヴリースたちを追い出した。

「ふー。息子を連れてどこへ行くつもりじゃあのアホは、年甲斐なく現役時代の装備まで引っ張り出しおって。氷災とはよく言ったものじゃよ全く。久しぶりにちびりそうだったわい。」

ゼファーは棚からウイスキーを取り出し一口飲み大きくため息をついた。


「母様あのゼファーさん?はお知り合いですか?」

かなり仲がよさそうに見え、気になった僕は尋ねた。

「あれは昔一緒の冒険者仲間だったドワーフよ。よくああやって軽口を言い合ったわ。」

懐かしい人に会えて上機嫌そうに見えたがすぐにイヴリースの顔には影が差した。

「母様冒険者だったんですか!?」

「ええそうよ。あなたもこれから冒険者になるのよ。」

イヴリースは自分の現役時代の事は深く話さずレクスを冒険者ギルドに連れて行った。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうイヴリース様。」

ギルドに入りカウンターへ向かと受付嬢が笑顔で尋ねてきた。

「この子の冒険者登録を。それから私の冒険者証はまだ使えるかしら。」

母が受付嬢と話している間僕は始めてくる場所に物珍しさを感じ周りを見渡したが皆母のほうを見て何やら話しているようだった。

「...おいあれってまさか氷災か?」「氷災?誰だ?」「復帰するのか」

など様々な声が聞こえてきたが総じて母の話題だった。

「レクス。ここに血判を押しなさい。」

母の声に振り替えると慌てて僕は親指に針を刺して書類に血判を押した。

「はい。これで登録は完了です。説明はどうなさいますか?」

受付嬢が聞いてくるが母は

「いえ結構よ。私の冒険者証もまだ使えるようでよかったわ。」

「あと1年遅かったら危なかったかもしれません。お待たせしましたこちらがレクス君の冒険者証になります。」

受付嬢から僕は緑色の縁取りがされたカードを受け取った。そこにはステータスも表示されているようで表面には


冒険者ランク:E

名前:レクス

種族:人種

と基本的な情報が書かれており裏面にはリアルタイムなステータスが書かれていた。

「裏面にはステータスやスキルがリアルタイムで反映されるようになっています。

冒険者はステータスやスキルを隠される方が多いので余り見せびらかすことはおすすめしませんのでお気を付けください。」

受付嬢に冒険者証の説明を受けると、騒いでる冒険者たちを横目に母に連れられ領都を後にした。





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