レベル1から無限の魔力生活

秋雨春月

第1話

幼いながらに酷く自分の才能を恨んだ。

その時は神童、神の子と呼ばれ持て囃された。

しかしそれは時間が経つにつれて呪いに変わった。5歳の時の判別の義によって授かったギフト、魔力無限。

前代未聞のギフトを与えられた少年は期待され将来を約束されたと言っても過言では無かった。しかしいくら魔法の使い方を習おうと使うことは出来なかった。使えるのは平民でも使える生活魔法のみ。ただ1人の肉親である父親はいつまで経ってもまともに魔法の使えない僕に失望し酒に溺れ暴力を振るうようになった。

期待に応えようと努力を続けてきたがそれも今日で終わりだ。

そしていつしか感情を失った僕は酒代の代わりに売られる事になったのだ。


「ようこそいらっしゃいましたレイルさん。」

気持ち悪い笑みを浮かべた奴隷商人が揉み手をしながら父親に近づく。

「魔力無限のギフトを持ったガキだ。勉強してくれるんだろうな」

僕は未来を諦め無言で佇んだ。唯一の肉親である父もまともに使えない魔法も判別の儀で授かったギフトも全てがどうでも良くなった。

「も〜ちろんでございますとも。かの有名な魔力無限のギフト持ちなんて逸品二度とお目にかかれないでしょう。色を付けさせていただきましょう!!」

レイルは内心ほくそ笑んだ。魔力無限という事は知られてても魔法がまともに使えない事は周りに知られておらず体が弱い事にして外に出すことは無かった。

最初こそ魔法の使い方を教えてみたりしたが使えないとわかった瞬間困った時に売ろうと決めていた。

「そうですなぁ…魔力無限とはいえまだ6歳。即戦力にならずとも養子に欲しがる貴族は幾らでもいるでしょう…このくらいでいかがでしょうか」

そう呟きながら商人はレイルに向かって人差し指を立てて見せた。

「たったのそれだけか?魔力無限だぞ。その気になれば幾らでも魔法を撃てる。戦略級魔法を連発できるヤツがたったの大金貨1枚だと?ふざけるのも大概にしろ。最低でも大金貨5枚だ」

レイルは怒り口調で捲し立て倍を要求した。

「しかしレイルさんいくら戦略級を連発できるとしても大金貨5枚は出せませんよ。平民が一生遊んでも有り余りますよ。大金貨2枚と金貨50枚までですな」

「くっ…ほかの店に行ったって良いんだぞ。顔なじみのよしみでここに来ただけだ。大金貨3枚だ。それ以下は売らん。」

「よろしいでしょう。大金貨3枚で買いましょう。契約書をお持ちします。」

商人は契約書を取りに部屋に出ると大笑いしそうになるのを必死に堪えた。

たったの大金貨3枚で思わぬ金蔓が手に入ったのだ。

使い方次第では無限に金になる。

今にも踊り出しそうになりながらレイルが待つ部屋に戻った。

「大変お待たせ致しました。こちらが契約書でございます。了承頂ければこちらに血判を。」

レイルは思わぬ大収穫に上機嫌になりながら指を針で刺し契約書に親指を押し付けた。

まともに魔法も使えないガキが大金貨3枚になったのだ。

「これで契約完了になります。良い取引ありがとうございました。」

商人は金貨を入れた袋をレイルに手渡した。

「こちらこそいい金になって助かった。じゃあな。」

レイルは大金に心躍らせ実の息子に目を向けることなく店を出た。

「さて…こちらへ来なさい。奴隷契約をします。」

商人はたった今肉親を失った少年に手招きした。


「それではまず名前を教えてもらいましょうか。」

奴隷商はぼくを立派なソファに座らせ質問した。

「…僕の名前はレクス。6歳」か細く消えそうな声で名乗った。

「レクス君ですね。私の名前はアルバート。この商会の主です。ここまでよく頑張りました。あなたを傷つける人はもうここにはいませんので安心してください。本当によく耐えた。」

そう奴隷商は名乗りレクスを安心させるように優しく伝えた。

「僕はこれからどうなりますか…?」

「そうですねぇ…契約は済んでいます。なのでまずはその傷を治しましょうか。」

そう言うとアルバートはテーブルの上のベルを鳴らした。

「お呼びでしょうか。アルバート様」

ノックの後執事服の初老の男性が部屋に入って来た。

「ウォルター。まずはレクス君の治療を。それから身支度、ギフトの調査を。私はこれからやる事がありますので任せましたよ?

レクス君、あとはこのウォルターが教えてくれます。」

アルバートは執事に素早く指示を出し部屋から出ていった。

「それでは治療から始めましょうか。

彼の者に癒しの光を、ヒール。穢れを祓いたまえ、リフレッシュ。」

ウォルターはレクスに手をかざし呪文を唱えた。

「痛みも傷も無くなってく…すごい」

レクスの服の隙間から見えていた痛々しい傷が全て塞がり子供らしい綺麗な肌に戻った。

「これが回復魔法です。レクス君、今までよく耐えました。ですがもう少しだけ頑張ってください。」ウォルターはレクスに新しく服を着せ別室に連れていった。

「次はギフトの事を調べさせてください。こちらに手を」

レクスはそう言われウォルターの指示通りテーブルの上の白い宝玉に手をかざした。

「これは…僕のギフト?」

そこにはぼくが判別の儀の時に授かったギフトやその他の情報が纏めて写っていた。

「その通り其れがレクス君の今のギフトとスキル等の情報です。」

そこに写っていた内容は


名前:レクス

種族:人種

体力:E

魔力:S

防御:C

力 :E

器用:D

俊敏:E

幸運:C

ギフト:魔力無限lv.1

スキル:言語理解lv.1 魔力制御lv.1 生活魔法lv.2 火属性魔法lv.1 水属性魔法lv.1 短縮詠唱lv.3 痛覚耐性lv.5


「これは…(この歳で痛覚耐性のレベルがここまで上がるとは…)ありがとうございます。今日はここまでにしましょう。レクス君の部屋に案内しますので今日はそちらでお休みになってください。」ウォルターは新しい部屋へレクスを案内するとそう伝えた。

「あの、ウォルターさん、ちょっと待ってください」

レクスは正直に伝えようとウォルターを呼び止めた。

「何かわからないところでもございましたでしょうか?」

ウォルターはレクスと目線を合わせるように膝を折った。

「あの...実は僕魔法が使えないんです。正確には使えるんですけど生活魔法しかまともに使えなくて...」

レクスは意を決したようにウォルターに打ち明けた。

「使えないとは?スキルがある以上生活魔法も火と水の魔法も使えるのでは?」

ウォルターは言っている意味が分からないというようにレクスに質問した。

「使えるには使えるんですけど・・・この程度しか使えなくて。水よ。」

レクスは短く詠唱すると手のひらの上に拳よりも小さな水を作り出した。

「これは...通常に比べて小さいですね...なるほど。ほかの魔法も同じような感じですか?」

「はい。火は蠟燭程度です生活魔法はすべて使えるのですが属性魔法はこのくらいしか出せません。」

「わかりました。旦那様に報告しておきますのでとにかくレクス君は今日はお休みになってください。」

ウォルターはレクスをベッドに入らせるとアルバートの元へ向かった。



「カメリア家へ使いを出しこの書状を届けよ」

アルバートはレクスと別れた後書状を用意し使者を送った。

「あれも哀れな男よ…妻を亡くし酒に溺れる毎日。お前にはまだ愛すべき息子がおると言うのに。早々に接触を図ったのは幸運だった。」

と1人感慨にふけるとノックが聞こえた。

「失礼致します。スキル鑑定まで終了しレクス君は部屋で休ませております。」

「ご苦労だった。して、スキルはどうだった?」

「確かに無限魔力のギフトは確認しました。

その他に火と水属性魔法も獲得していました。」

ウォルターはアルバートにスキル鑑定の結果を説明し始めた。

「ダブルか。しかも反対属性を。これは土と風も覚えれる可能性があるな。」

「その通りでございます。相反する属性は普通覚える事は出来ませんので基本四属性は覚える可能性はあるかと思われます。更には複合属性も…」

「複合属性までもか…やはり子供は良いものだ。可能性に満ち溢れておる。レクスは将来化けるか…」アルバートはレクスの将来が明るいことを知り安心した。

「その可能性は大いに考えられます。しかし・・・」

ウォルターは言い淀む。

「どうした?何かあったのか?」

ウォルターはスキル鑑定とレクスに聞いた話をアルバートへ伝える。

「気になる点がいくつか。まずは痛覚耐性のレベルが極端に上がっていること。おそらく相当に虐待されたのでしょう。」

「レベル5だと?信じられん...まだ6歳だぞ。どれだけの苦労を...」

アルバートは思いつめるように頭を抱えた。

「もう一つ報告したい事がございます。」

「なんだまだあるのか?」

「はい。実は先ほどレクス君に魔法を見せていただいたのですが恐らく魔力出力が著しく低い可能性があります。」

ウォルターは導き出した可能性をアルバートに伝えた。

「出力だと?いやしかし...(これは不幸中の幸いか。カメリア家は魔道卿とも呼ばれる貴族。あそこならその程度どうにでもなるか...)何でもない。レクス君はカメリア家に任せる予定だ。」

「カメリア家・・・魔道卿ですか。ならばなんとかなるやもしれません。」

ウォルターはほっと胸を撫でおろした。

「カメリア家には使者を送ってある。早ければ明日には来られるだろう。私も今日はもう休む。何かあれば知らせろ。」



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