第3話

5日かけてカメリア領都にある屋敷に戻ってきたレクスたちは到着した次の日から修行を開始した。

「レクス、今日から修行を開始するわ。まずは座学ね」

イヴリースはまずレクスを書斎へ連れていき授業を始めた。

「はいイヴリース様」

「イヴリース様なんて他人行儀な呼び方辞めて頂戴。私たちはもう家族なのよ?これからはお母様と呼びなさい?」

「わかりましたお母様」

「素直でいい子ね。」

何のためらいもなくお母様と呼ばれイヴリースは微笑みながらレクスの頭を撫でた。

「それじゃあ気を取り直して授業を始めるわね。この世界に存在する魔法は火水風土の4つの基本属性と氷雷の二つの複合属性、さらに光闇無の3つの特殊属性があるわ。私は水と風、氷のトリプルと言われる魔導士よ。アルフレッド...アルは火土風のトリプルよ。通常は相対関係にある属性を覚えることは困難と言われているわ。理由は何となく想像できるでしょうけど互いに打ち消しあう属性だからよ。それにもかかわらず火と水が使えるレクスはとても珍しいの。」

イヴリースはレクスがちゃんと理解できているか確認しながら授業を始めた。

「でも僕はまともに魔法が使えません。」

レクスはとても使えるとは言い難いレベルの魔法しか使えなかったのだ。

「それは相反する属性だからというのが主な理由よ。他にも考えることはできるけどとりあえずはそう考えておいてちょうだい。話をつづけるわね。」

イヴリースはレクスの疑問に丁寧に答えながら続けた。

「さっき言った属性の他にもいくつか属性というか種類があるのだけどこれはひとまず置いておくわね。次は魔法のレベルよ。スキルにはレベルがあってレベル1は初心者レベル、ただ使えるようになった程度、レベルは最大で10レベルあるけどそこに至るには多大な努力が必要になる。

だけど属性魔法のレベルだけが重要じゃないので気を付けること。レクスにはこれから入学までに必要なスキルを覚えてもらうわ。まずは土と風、無の属性魔法。恐らくだけど相反する属性を持ってるならほかの属性も覚えることができるわ。

この他に覚えてほしいスキルは短縮詠唱の派生スキルである詠唱破棄、それから思考加速、その派生スキルの多重思考、後大事なのはこれも短縮詠唱の派生スキルで多重詠唱。この多重詠唱ができると複合属性の魔法を使えることができるわ。ここまでを可能な限り入学までに覚えてもらうわね。レベルを上げるのは入学してからでもできるからまずはスキル取得に励むこと。」

レクスはここまでの内容を紙に書きながら今まで独学で練習していたものより本格的に指導を受けられ魔力無限をちゃんと使いこなせるようになるかもしれないと希望を持ち始めた。

「そしてすべてにおいて大事な物、これは入学までに可能な限りあげておく必要がある、魔力制御。これだけはすべての魔法スキルの基本になるから重点的に鍛えること。そうね、まずは全身に魔力を循環させてみましょう。」

レクスはそう言われいつもやっていたように魔力を体内で循環させた。

「ゆっくりだけど淀みなくきれいに巡ってるわね。」

イヴリースは魔力感知を使いレクスの体内を巡る魔力を視ていた。

「基本はできるみたいね。そしたら魔力をできるだけ高速で循環させてみて。」

レクスは言われるがままなるべく早く魔力を巡らせた。

「(うーんおかしいわね。通常魔力の循環速度を上げると魔力の出力が上がるから体外へ溢れるはずなのだけど。それに速度もそこまで早くない。)ありがとうレクスそのくらいでいいわ。」

イヴリースは考え事をしながらレクスを止めた。

「どうでしたか?お母様。」

「だいたいわかったわ。これから朝起きて寝るまで今できる最大速度で体内で魔力を循環させ続けること。それに慣れたら次のスキルを取得しましょう。」

とりあえずの今後の方針を立てるとレクスは

「最大速度で回すのはいつもやっていたことなのでもう慣れてると思います。」

と打ち明けた。

「なんですって?ならさっさと次に行きましょうか。」

イヴリースは驚いた。何せこの制御になれているのに魔力制御のレベルは1だったからだ。やはり出力量が少ないが故の弊害なのかと納得し次のスキルへ進むことにした。

「そしたら次はイメージだけで魔法を使うこと。要は短縮詠唱のスキルレベルアップね。こんな感じよ。」

そう言うとイヴリースは指を3本立ててそれぞれの指先に水風氷の魔法を点滅させるように発動させた。

「ここまでできなくてもいいから火と水を交互に指先に出す練習ね最初は詠唱して徐々にイメージだけで出せるようにすること。」

「すごい...頑張ります。」

レクスは火よ、水よ、とつぶやきながら交互に魔法を発動させる練習を始めた。



そんな練習を続け屋敷での生活も慣れた頃レクスは詠唱破棄を獲得していた。

「順調に獲得できたわね。(そこまでやれなんて教えていないのだけれど...)」

レクスの指先は火と水の魔力により目で追うこともできないくらい高速で赤と青色に点滅していた。

「お母様、次は何をすればいいですか?」

「そ、そうね次は2つの属性を同時に使う練習をしましょうか。」

するとレクスは指を二本立てて

「これでいいですか?お母様。」

と、人差し指に火の魔力、中指に水の魔力を発生させてこれも先ほどと同じくらいの速度で同時に点滅させ始めた。

「んな・・・・。(そんな、教えてない事までしかもわけわからない速度で発動してる・・・)」

イヴリースはあまりの光景に絶句した。通常何か月も練習してやっと使える多重詠唱をこんな短期間で習得するとは思わなかったのだ。

「レクス、一度スキル鑑定をしましょうか。少し待っていなさい。」

そう言うとイヴリースはスキル鑑定のための宝玉を取りに行き書斎に戻った。

「待たせたわね。これに手をかざしてちょうだい。」

レクスは商会で見た以来の宝玉に手をかざした。そこに現れたのは

名前:レクス

種族:人種

体力:E

魔力:S

防御:C

力 :E

器用:B

俊敏:E

幸運:C

ギフト:魔力無限lv.1

スキル:言語理解lv.1 魔力制御lv.2 生活魔法lv.2 火属性魔法lv.1 水属性魔法lv.1 短縮詠唱lv.7 詠唱破棄lv.6 多重詠唱lv.6 思考加速lv.2 多重思考lv.1 痛覚耐性lv.5


「嘘でしょ。いくら何でもスキルレベルが上がる速度がおかしいわ。レベル6とか7なんて筆頭魔導士レベルじゃないの・・・。それに多重思考も習得してる・・」

イヴリースはあまりの光景に頭を抱えた。

「お母様、どうでした?」

基準が分からない僕はイヴリースに尋ねた。

「...これなら次に進んでもよさそうね。」

予想外の速度でスキルを習得するレクスに驚きながらもスポンジのように吸収していく楽しさを覚え次々にレクスに自分が持つ知識を教え込んだ。


修行を開始して3年が経ちレクスは火と水の他に風、土、光、闇、無、氷、雷を覚えることに成功し他のスキルも軒並み上がっていた。

名前:レクス

種族:人種

体力:D

魔力:S

防御:C

力 :E

器用:A

俊敏:E

幸運:C

ギフト:魔力無限lv.1

スキル:言語理解lv.3 魔力制御lv.10 生活魔法lv.4 火属性魔法lv.6 水属性魔法lv.6 風属性魔法lv.5 土属性魔法lv.5 光属性魔法lv.5 闇属性魔法lv.4 無属性魔法lv.6 短縮詠唱lv.10 詠唱破棄lv.10 多重詠唱lv.10 痛覚耐性lv.5 思考加速:lv.5 多重思考:lv.3

称号:魔を極めし者(全属性魔法を習得した証、魔法威力が20%上がる。)


全属性を覚えたおかげで魔を極めし者という称号を手に入れ確かに魔法の威力は上がったが、まだ同レベルの魔導士と比べると出力は数分の1程度しかなく同じ魔法を使ってもレクスが使う魔法は全く威力が出ないのであった。3年間修業を積みイヴリースも知り合いの魔導士へ聞いて回ったが出力を上げるにはより高位の魔法を使うくらいしか方法はないとの事で今回の称号取得は大きな一歩と言えた。


レクスもただ修行だけをしていただけではない。

様々な文献を読み魔法を勉強し独自に魔法を開発していたり既存の魔法を解析したりと9歳とは思えない才覚を発揮していた。


結論としては既存の魔法は全てレクスに合わない魔法だと分かった。

疑問に思った事を貪欲に調べ時にはイヴリースすらも困らせながら自分なりに魔法とは何かを突き詰めたのである。


「まずは水魔法を試してみよう。火は火事が怖い。」

レクスは3年の修行の間に家の裏山に向かって魔法の練習をしていた時にファイヤーボールを放ち火事になったことがありイヴリースにこっぴどく叱られていた。

「あの時の母様は本当に怖かった・・・。ウォーター。」

鬼のような顔をした母様の顔を思い出し寒気を感じながら水の基本魔法を発動した。

「普通ウォーターボールをイメージすればそのまま飛んでいくけどそのプロセスを順番に行う...ウィンド。」

右手のひらにボール状のウォーターを作り出し左手のひらにウィンドの魔法を待機させた。発動待機させれば時間によって魔力は減っていくがレクスは無限に使えるためゆっくり工程を確認しながら魔法を練り上げた。

「そして待機させた二つを射出するっ!」

レクスは右手のウォーターボールの後ろに左手のウィンドを持ってきてウィンドの魔法をウォーターに向かって発動した。

「よし、成功した・・・けどこれはダメだな」

発動したウィンドによって飛ばされたウォーターは通常のウォーターボールより高速で飛び20mほど進んだところで落下した。しかしレクスの手は血にまみれていた。

ウィンドの魔法がウォーターを待機させている右腕に干渉したのだ。

「惜しいところまでは行ってるんと思うんだけどなぁ。」

レクスは右腕にヒールを掛けながら呟いた。

「ウォーターボールとして飛ばすにはウォーターに少しのウィンドを混ぜて飛ばす、だけど混ぜるだけじゃ飛ばないから押し出すようにした。恐らくここまでは合ってる。だけどいちいち怪我してたんじゃまともに使えないしなぁ。」

以前発動した魔法を適当に飛ばし、そこにウィンドをぶつけて飛ばしたことがあったが安定しなかった。

理由は落下中にウィンドが当たるタイミングが毎回違うためだった。

レクスは治した右腕を擦り独り言をつぶやきながら屋敷に戻った。







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