第6話

「母様これからどこへ行くんですか?」

僕は久しぶりに領都から外へ出てワクワクしながら聞いた。

「着いてからのお楽しみよ。」

イヴリースはそっけなく返事した。

「んーそれじゃあ母様はどうして氷災って呼ばれてるんですか?」

「はぁ。息子にはあまり知られたくなかったのだけれど昔やんちゃしてた頃の名残よ。その頃はまだ冒険者をしていてアルやザファー達と色々な所へ旅をしたのよ。」初めて聞く母様の若い頃に驚いた。子爵家夫人が元冒険者とは思わなかったのだ。

「ある時王都の冒険者ギルド本部に強制依頼が発令されたわ。強制依頼っていうのは緊急性が高く不特定多数の被害者が予想される場合に発令されるものなの。

その依頼はフレイラス侯爵直々の依頼で王都から馬車で3日程度のフレイラス領にあるグレースの街に数えきれないほどの魔物が迫っているというものだった。

緊急依頼を受けた私たちはすぐに馬車を用意して向かったわ。」


僕は今まで語られる事がなかった母様の冒険者時代に街道を歩き続ける疲労を感じながらも聞き入った。

「他の冒険者達よりも早くグレースに到着した私達はすぐに外壁に上り状況を確認したわ。」



眼前には地を覆いつくすほどの魔物。到達するまで一刻の猶予もない状態だった。

当時私達のパーティは前衛にゼファーとアルフレッド、中衛兼斥候にはヒューリアというハーフエルフの弓士、後衛に私という構成でバランスが取れたパーティだった。壁外の魔物を確認するとすぐにグレースの冒険者ギルドで作戦会議に参加した。


グレースギルドの作戦は外壁上から魔法使いの総攻撃後魔物が迫っている南門ではなく西門から冒険者の斥候及び前衛を走らせ側面より魔物を引きつけ西の森へ進路を変えることだった。その説明を受けた私はあまりにも危険な作戦に反発した。しかしその作戦は領主からの指示でありグレースギルドは従う他無かった。

街に残る多くの市民を助けるために少数の冒険者を切り捨てるという最低かつ効率的な作戦を立てた領主への冒険者からの反感は凄まじいものだった。

当然だ。領軍は冒険者の後方に配置され矢面に立たされる冒険者は死ねと言われているのと変わらないのだ。

しかしアルフレッドは反対する冒険者を宥め一番危険な先頭でゼファーと斥候のヒューリアと共に指揮を執った。


外壁目前まで魔物の大群が迫った時西の方向から狼煙が上がった。

その狼煙を見て私たちは一斉に詠唱を開始した。

私はまず南門に向かって魔法を放った。


「一匹たりとここは通さない。凍てつく壁にて我らを守り給え、フロストウォール!!」

万が一にも魔物を門に近づけないと言わんばかりに南門の目の前に巨大な氷の壁が出現した。

最大の魔力を込めたため反動でめまいがしたが魔力ポーションを呷りとっておきと言わんばかりに腰につけていたマジックポーチから拳より一回り大きな、売ったらいくらになるかもわからない青色の魔石を取り出すと気合を入れて新たに詠唱を開始した。

「ぜっっったいに守る!アル君も、みんなも!大切な人達を!!!巡れ、巡れ、魔力を糧に。」

詠唱を開始すると体中の膨大な魔力が魔石に流れ込んだ。私は再び急激なめまいに襲われながらも

「疾く、疾く、この地が続く限り。」

更に呪文を紡ぎ魔石が臨界寸前かのように蒼く輝き始める。

「誘うは彼の地!賭すはこの身の魔素!!願いは唯一つ!!!」

私は魔力欠乏によるめまいと全身の悪寒に歯を食いしばり呪文を叫んだ。

「月冴ゆる輝きを以って彼の者共を永久の眠りへ。ニヴルヘイム!!!!」

魔法名を叫んだ瞬間手の魔石は砕け散り込められた魔力が迸った。

その時進軍して来た魔物達の中心に巨大な3層の魔法陣が現れ甲高い音が鳴り響き氷に閉ざされた。

それを見て私は安心したかのように城壁の上に倒れた。

これは聞いた話だが進軍して来た魔物達は魔法陣を中心に氷に埋まりそこから付近の魔物は連鎖するかのように氷に包まれ全て凍死していたという。


参加した冒険者1500名の内戦死者は僅か30名重軽傷者は100名程度の快挙を成し遂げたのだった。


全ての魔力を使い果たした私は1週間眠り続けた。

そして起きた時には全てが終わっていた。

グレースの街への被害はゼロで魔物の大群から窮地を救った私と最前線で指揮をしたパーティメンバーは王城で褒美を渡されることになった。

しかしそこにはヒューリアの姿はなかった。

僅かな戦死者の内の1名だったのだ。仲間を守れなかったと知った私は涙が枯れるほど泣き叫んだ。

しかし立ち直る間も無くアルフレッドとゼファーに無理やり城へ連れてこられた。


「此度はよくぞ街を救ってくれた。グレースの街を突破されればその先はいくつかの小さな町、延いてはこの王都まで侵攻していた事だろう。そうなってはどれだけの被害が生まれたか想像もつかない。聞けば地を埋め尽くさんばかりの魔物の軍だったと。その被害を抑え未然に防いだ活躍に儂は報いたく褒美を用意した。」

国王を前にしても私は仲間を失った悲しみから立ち直れずにいた。

「まずはアルフレッドよ。」

「はっ。」

国王直々に名前を呼ばれたアルフレッドが返事をし一歩前へ出た。

「この度フレイラスより命を軽んじる作戦通達があったこと。領民の命を守る為とは言え誠に申し訳なかった。」

恥を捨てて王は頭を下げ続いて傍に仕えていたフレイラス侯爵も頭を下げていた。

「無謀な作戦にもかかわらず自ら最前線での指揮、その勇気に恐れ入った。本当に申し訳なかった。そして我が領民を救っていただき誠に感謝する。」

フレイラス侯爵も王に続き謝罪をし礼をした。

その言葉にアルフレッドは

「頭を上げてください。勿体なきお言葉です。他に誰もやらないなら私たちが。そう思っての行動です。我々は惜しい人を亡くしましたが愛する国を救えた。その結果に彼女もあの世で喜んでいるでしょう。」

頭を下げた二人に慌てて頭を上げさせると素直に気持ちを綴った。

「亡くなった仲間にも申し訳ないことをしてしまった。その方には国から見舞金を出そう。して、アルフレッドよ。レイハルム王国国王オーターク・レイハルムの名のもとに此度の最前線による指揮、及びその勇気を称え一等金龍宝勲章を授与する。」

王は傍仕えから勲章を受け取ると王自らアルフレッドの左胸に着けた。

「身に余る光栄、恐悦至極にございます。」

アルフレッドはお辞儀をして下がると

「次にゼファーよ、前へ。」

その言葉にゼファーも立ち上がり王のもとへ進み出た。

「異種族でありながら我らを救っていただき誠に感謝する。同じく一等金龍宝勲章を授与する。」

同じように勲章を受け取ると

「ありがたき幸せ。国への良い土産話が出来ましたわい。これからも良き隣人であることを願う。」

ゼファーは王の前にも関わらず臆せず言うと仲間の元へ下がっていった。

その大胆な物言いに傍に仕えていた貴族が騒ぎ出す。

「沈まれ。恩人に失礼であると弁えよ。」

その一言で静寂を取り戻すと最後にイヴリースを呼び出した。

「最後になるが氷災の魔女イヴリースよ。前へ。」

誰の事を呼んだのか一瞬わからなかったが自分の名前が呼ばれるハっとすると前へ進み出た。

「イヴリースよ。此度の戦は貴殿が止めたといっても過言ではない。話を聞くに大多数の魔物を一撃で葬ったと。その功績により氷災の名を贈る。それから皆と同じく一等金龍宝勲章を授与する。」

王は最後の勲章を手にしイヴリースに着けると再び口を開いた。

「して、これが最後になる。レイハルム王国国王オーターク・レイハルムの名のもとにレイハルム王国子爵位を授ける。正直な話をするとその戦力一介の冒険者として遊ばせておくには勿体ない。お主こそ良ければこれからも我が国へ貢献してくれるとありがたいのだが。」

私は予想外の褒美にしばらく迷うと

「謹んでお受け致します。...この力はレイハルム王国の為に振るわれる。」

私は王より子爵を示す短剣を受け取ると誓いの言葉を口にした。

「勇気ある決断に敬意を表する。これからは我が国の臣として期待する。その短剣は子爵を表す紋章が刻んである。反対側には家紋を彫らせるといい。後日此度の叙爵に関して再び来てもらうことになる。それまではゆっくりと休まれるといい。」

私たちは褒美を受け取り終えると宿に戻った。







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レベル1から無限の魔力生活 秋雨春月 @skylink06

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