◆3◆ 風と共に歩む者達
ゴブリンチャンピオンとの激闘を繰り広げ、見事に勝利した僕。
そんな僕に不意打ちを仕掛けようとしていたゴブリンキングから助けてくれたベネットと共に迷宮の奥へ進んでいく。
この迷宮は深い森に覆われているようなんだけど、緩やかな風がずっと吹いている。
ちょっと冷えていて心地いいんだけど、妙な違和感を僕は覚えていた。
『――――』
また何かが僕の耳元で囁く。
この囁き声は奥へ進むごとに大きくなってきている気がしていた。
ただ、聞き取るにはまだまだ小さな声だ。
気になるけど、理解ができる状態ではない。
「どうしたのクロノ?」
「いや、また何か聞こえた気がしたんだけど」
「何かが聞こえた? 気のせいじゃない?」
気のせいじゃないよ、とベネットに言いたいけどやめておいた。
これはおそらく【詩詠み使い】になった僕しか聞こえない声だ。
詩詠み使いの特殊スキルとして声なき声を聞き取ることができる。
それはとても重要なことで、場合によっては迷宮攻略に関する情報だったりする。
職業スキルで得られるものだから、何をどう言おうと騎士であるベネットにはこの声はおそらく聞こえない。
納得させるのは難しいという意味になる。
だから下手に説明するよりも、僕はベネットに合わせた。
「かもね。さっき戦ったばかりだし、ちょっと疲れたからかな」
「ここで休む?」
「大丈夫。行こう」
ベネットが心配だから少し休んでもよかったけど、それよりもリリィ先生が心配だった。
彼女は何の準備もなく、唐突にこの迷宮へ連れ去られたんだ。
誰が何のために連れ去ったのかわからないけど、無防備に近いリリィ先生がモンスターとエンカウントとしたら悲惨な末路しかない。
そうなる前に早く見つけ出せないと。
そんなことを考えつつ進んでいると、隣を歩いていたベネットが足を止めた。
「どうしたの?」
「道がない」
僕は思わず進行方向に目を向けると、そこには切り立った崖がある。
奥には何やら意味ありげな橋が二つあり、全部が明後日の方向へ顔を向けていた。
「なんだこりゃ?」
試しに崖の下に目を向けてみると、激しくうねり声を上げる川があった。
さすがに泳いで渡るのは難しい。
流されるだけならいいけど、たぶんそのまま死んじゃうなって思うほど川の流れが激しかった。
「うーん、どうしよう……」
あの変な方向に向いている橋をどうにかしないといけないか。
でもどうするんだろう?
たぶん何か仕掛けがあると思うけど、それがわからない。
そんなことを思っていたらまた風が吹いた。
緩やかな風だ。
僕達の頬を撫で、笑いながら去っていく。
「あ! 見て!」
ベネットが指した方向に目を向けてみる。
すると風が吹き抜け、明後日の方向を見ていた橋が僅かに回転するように動いた。
なんで橋が動いたんだ?
僕は思わず橋を注意深く見てみると、回転軸になっている棒の頂点にカラカラと音を立て回っている風車があった。
もしかしたらあれが仕掛けか。
「風が吹いたからちょっと動いた。もう少し強い風が吹けば通れるようになるかも!」
「通れるようになるわね! でも、そんな風が吹くの待ってたら日が暮れちゃうわよ?」
「ううん、大丈夫。こんな時のために使えるものがあるよ」
僕は携えていたタクティクスを手に取る。
鍔にある輝く石に触れ、ブーメラン形態に変化させた。
エンチャットブーメラン――込める魔力によって属性が付与される武器だ。
この武器の特性と、僕が使える風魔法を合わせればあの回転橋なんて簡単に動かせる。
「よし」
詩を詠み、ブーメランに風属性を付与する。
途端にブーメランは風をまとい、躍動し始める。
あとは狙いを定め、力いっぱい投げるだけ!
僕は力いっぱいにエンチャットブーメランを回転橋の風車に投げた。
途端に旋風が起き、橋が回転し始める。
明後日の方向を向いていた二つの橋は回転し、まっすぐな道が生まれた。
「やった!」
思った通りに道ができた。
これで先に進めるぞ!
戻ってきたブーメランを受け止め、剣の状態へ戻す。
僕はベネットと共に橋を渡り、先へと進んでいった。
「うわぁ……なんだこの大きさ」
進んでいると今度は大木が道を塞ぐように倒れていたのを見つける。
倒れている大木はあまりにも巨大で、魔法や剣では切り開けないほどの大きさだった。
またまた困った。
タクティクスでも切り開けないし、魔法でも壊れないし。
なんでこんな大きな木が倒れているんだよ。
このままじゃ通れないよ。
「ぐぎぃッ」
頭を悩ませていると妙な奇声が耳に飛び込んできた。
振り返るとそこには爆弾アリがいた。
何やら怒っているようで、背中にある導火線に火がついている。
「ちょっ、ヤバッ! 逃げなきゃ!」
「待ってベネット! いいことを思いついたよ!」
「ハァ!? こんな時に何を――」
「こいつら爆発するんだろ? ならあれにぶつけちゃおうよ」
「ぶつけるって、どうやって!?」
「こうやって、だよ!」
僕はタクティクスをブーメラン形態に変え、風属性をまとわせ投げた。
途端に爆弾アリは旋風に巻き込まれ、そのまま大きな倒木へ突撃する。
アリ達は悲鳴を上げ、大きな倒木へぶつかり連続で爆発が起きた。
するとさすがの倒木も耐えきれず、木っ端微塵となる。
「よしっ!」
「よしっ、じゃないわよ! 何このメチャクチャは!」
「怒らないでよベネット。通れるようになっただろ?」
「なったし助かったけど、もっといい方法があったでしょ!」
そんなこと言われてもなぁー。
まあ、とりあえず通れるようになったしいいか。
僕はベネットをなだめながら奥へ足を踏み入れる。
進むごとに暗くなる迷宮は、不気味だ。
それに、進むごとに妙な息苦しさを覚える。
この感じ、なんだ?
とても嫌な空気だ。
まるで僕達を拒んでいるかのように思える。
今まで感じたことのない息苦しさに顔を険しくさせながら迷宮の最深部へ僕達は足を踏み入れた。
まるで、ヘドロでも溜まっているかのような黒で支配されている。
こんな所にリリィ先生はいるのか?
僕はそんなことを感じながら足を踏み入れると、唐突に空間が明るくなった。
「あれは――」
空間を見渡すと、真ん中に人影を見つける。
そこには黒い石碑があり、その石碑に寄りかかるように眠っているリリィ先生の姿があった。
「先生!」
僕達はリリィ先生へ駆け寄ろうとする。
だけど、そんな僕達の進路を邪魔するかのように地面が揺れ始めた。
「ギシャアアアァァァァァッッッッッ!!!」
それは唐突に姿を現した。
太いツタでリリィ先生と石碑を絡め取り、伸びる巨大な花弁が僕達を見下ろす。
生える果実は毒々しく色づき、その一つが地面に落ちると大地が溶けた。
そんな巨大な花が僕達を睨みつける。
威嚇をするかのように、雄叫びを上げた。
「なっ、何こいつ!」
「こいつは、エビルフラワー!!!」
なんでこんな奴がいるんだ。
確かこいつ、シナリオ後半に出てくるボスモンスターだぞ。
そんなことを思っていたらまた声が聞こえた。
今回はとてもハッキリとした言葉だ。
『誰か助けてくれ。私は謝らなければならないんだ! だから、だから見つけてくれ。私は、私はここにいる!』
助けを求める声だ。
誰が? どうして?
わからないけど、助けを求めている。
「こんなの敵わないわよ! 逃げよう、クロノ!」
「いや、できない」
「できないって、何を――」
「来た道が塞がれてるんだ」
ベネットは振り返り、状況を理解する。
ここはボス部屋。
逃げるには特殊なアイテムが必要になる。
僕達はそんなアイテムを持っていない。
生き残るためには、このボスモンスターと戦い勝つしかない。
「そんな……あんなのに勝てる訳がないわよ」
確かに普通に戦ったら勝てる相手じゃない。
でも、これはゲームだ。必ず攻略法が存在する。
だから、それさえ見つけられたら僕達は生き残ることができる。
だけど、今のベネットにそんなこと言っても理解されないだろう。
むしろ拒絶されて、事態が悪くなるかもしれない。
なら、ここはベネットを勇気づけて立ち上がらせなきゃ。
「大丈夫! あいつは倒せる!」
「倒せるって、何を根拠に――」
「リリィ先生を起こすんだ。そうすればどうにかしてくれる!」
「どうにかって、本当にどうにかできるの?」
「できる!」
根拠のないことを僕は言い切る。
そんな僕を見て、ベネットは一度頭を押さえ始めた。
深呼吸をし、そして覚悟を決めたかのように頬を叩く。
そして、強い目を僕に向けてこんな言葉を口にした。
「わかった、信じる」
「ホント?」
「どのみち戦うしかないんでしょ? ならアンタの言葉を信じるから。どうにかしてよね、クロノ!」
立て直したベネットと共に僕はエビルフラワーに目を向ける。
助けるべきはリリィ先生と謎の声。
勝てるかどうかは正直わからないけど、それでも絶対に勝つ。
そんな決意をして、僕達はボスモンスター【エビルフラワー】に挑む。
ゲーム内転生した僕はギフト【詩詠み】を駆使し、最強へと駆け昇る 〜詩詠み探索者の狂騒曲《ラプソディー》〜 小日向ななつ @sasanoha7730
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