◆2◆ vsゴブリンチャンピオン

 暗い暗い森の中に差し込む一筋の光を浴びていた錆びついた剣を手にした僕は、どこかから降りてきたゴブリンチャンピオンと対峙していた。


 手に入れた機巧剣タクティクスの性能は、僕でも引くくらいすごい。

 なんかものすごい威力の斬撃が飛んだからね。

 対峙の幹を切り裂くほどだったし。


 当然、そんな攻撃を見たゴブリンチャンピオンは警戒をする。

 こっちに来るなと言わんばかりに威嚇をしまくっているよ。


 その言葉に甘えて逃げたいところだけど、そうもいかない。

 頭痛に襲われているベネットのためにも、鎮痛効果のある薬草を見つけないといけないんだ。

 そのためにもゴブリンチャンピオンが塞いでいる道を進まなきゃいけない。

 だから逃げて引き返すなんて選択は取れないんだ。


「ギィギッ! ギギギッ」


 戦う意思を見せ、ゴブリンチャンピオンと睨み合っていると上のほうから叫び声が聞こえた。

 視線を向けるとそこには王冠を被り、マントを羽織ったゴブリンの姿がある。


 あれはゴブリンキングだ。

 チャンピオンなんかよりも何倍も偉いゴブリンの中のゴブリンだ。


 なるほど、だから普段は偉そうにしているチャンピオンが出てきたんだな。

 まさかキングを戦わせる訳にもいかないし、もしかしたら命令されて仕方なく襲いかかってきたのかもしれないな。


 何にしても、敵であるゴブリンチャンピオンに情けをかける気はないけどね。


「ギギィッ! ギャ!」

「ウッホォン!」


 何やらよくわからない言葉でゴブリン達はやり取りをし、直後にキングが何かを放り投げた。

 それは剣と盾だ。


 近くに落ちた武具を手にしたゴブリンチャンピオンは、ギロリと僕を睨みつけると「ウォォォォンッ!!!!!」と雄叫びをあげて飛びかかってきた。


 初めは右から剣が僕の身体を切り飛ばそうと襲いかかってきた。

 でも、その攻撃を僕は難なく躱す。


 次も突撃しつつ、力任せに振り回してきた。

 右へ左へ、時々真上からの連続攻撃だ。

 だけど、その攻撃もちゃんと見切って僕は避けた。


 クロノが騎士をやっててくれたおかげだろうか。

 ゴブリンチャンピオンの太刀筋が見える。

 だから力任せのぶん回しだろうとなんだろうと難なく躱せた。


 このまま疲れるまで避けていようかな?

 いや、ダメだ。ベネットを早く回復させたい。

 時間を使ったらその分、ベネットが苦しむ。


 そう考え、僕は反撃に出る。


「ウォッ!?」


 ゴブリンチャンピオンが振る剣に合わせ、僕も剣をぶつけた。

 思いもしなかったのかゴブリンチャンピオンは驚いたように目を大きくしている。


 だけど僕はお構いなしに剣を弾いた。

 途端にゴブリンチャンピオンは仰け反り、無防備な体勢になる。


 絶好のチャンスだ。


 仕留めようとしたその瞬間、硬い何かが肩にぶつかった。


「いっ」


 激痛が走り、思わず足が止まってしまう。

 なんだ、と思うと足元に石ころが転がっていた。

 なんで石が肩に。

 そう思った瞬間、ゴブリンキングが「ゲギャギャギャ」と高笑いをした。


「あいつか!」


 ゴブリンキングに攻撃を邪魔された。

 くそ、さすがに一筋縄にはいかないか。


 思わず苦虫を噛み潰したように僕は唸る。

 肩に当たったからまだいいけど、頭だったらどうするんだよ。


 そんな風に怒っていると、ゴブリンチャンピオンがさらに後ろへ下がった。

 すぐに追いかけようとした僕だけど、肩に激痛が走り力が抜けてしまう。


 そんな僕の動きの鈍りを見たゴブリンチャンピオンは何かを叫んだ。

 その叫びに応えるようにゴブリンキングが何かを放り投げる。


 それは弓矢だ。

 受け取ったゴブリンチャンピオンはすかさず弓を引き、矢を放った。


「わっ!」


 飛んできた矢は僕の頬を掠めて後ろの木へ突き刺さる。

 すぐにヤバいと感じ、僕は木の陰に隠れた。


 もし軌道が逸れてなかった顔に矢が突き刺さっていた。

 あの世へ直行コースだったよ。


 ゴブリンチャンピオンは僕が隠れたにも関わらず矢を放ってくる。

 それはもう、容赦がない。


 ならこっちだって容赦しないぞ。


「こいつをくらえ!」


 僕は木陰から身体を出し、剣を思いっきり振った。

 この力なら大樹を真っ二つにできるぐらいの威力と飛距離が出るはずだ!


 そう思って剣を振ったけど、何も出なかった。


「あれ?」


 さっきまで飛ぶ斬撃が出てたのになんで出ないんだ?

 そんな疑問について考えそうになった時、ゴブリンチャンピオンからまた矢が放たれた。

 それは雨のような攻撃だ。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


 慌てて僕は隠れ、攻撃をやり過ごそうとする。

 だけど攻撃は止まらない。


 普通、弓でこんな連射できないはずなんだけど。

 何かしらのスキルを使ってるな、あのゴブリンチャンピオン!


 うわ、木がヤバいことになってる。

 このままじゃ矢の剣山になっちゃうよ!


 飛ぶ斬撃が出なかったことで形勢が一気に変わった。

 この窮地をどうにか乗り越えなければ。


 だけど、どうやって?

 飛ぶ斬撃が出ないし、かといって無策に突っ込むのは無謀でしかない。


 何かいい方法はないのか?


『【エンチャットブーメラン】を使用推奨する』


 不思議な声が頭に響く。

 そういえばこのタクティクス、何か新しい機能が使えるようになったとかあった。


 それがエンチャットブーメランだ。

 一体どんな効果を持ってて、どういうことができるのかわからないけど遠距離攻撃できることには違いない。


『エンチャットブーメランを使用する際には魔法を発動させることを推奨する』

「魔法?」


 なんだかわからないけど、そうしたほうがいいのかもしれない。

 今使える魔法は、風魔法のウィンドカッターだけ。


 これを発動させたらどうなるんだろうか。

 ええい、考えるのは後だ。

 とにかくやってみよう。


「〈旅立つ者達よ、大いなる夢を抱き、風と共に歩き出せ〉――ウィンドカッター!」


 僕は詩を詠み、魔法を発動させる。

 すると魔法はブーメランになったタクティクスに吸われ、強烈な旋風をまとい始めた。


 おお、なんだこれは!


「ブルゥゥウッフゥゥゥゥゥッッッ!!!」


 思いもしない発見に感動を覚えている暇はなかった。

 もう木が折れそうなぐらいになっている。


 ええい、どんなことが起きるかわからないけど考えてる場合じゃない。


 どうにかなれぇー!


 僕はゴブリンチャンピオンに向かって風をまとうブーメランを投げた。

 初めは弱々しく飛んでいたブーメランだけど、一定の距離を進んだ瞬間に一気に加速する。

 そのまま飛び込んでくる矢を巻き込み、ついでに木々と石を巻き上げ、ゴブリンチャンピオンへ向かっていく。


「ゴッ!?」


 竜巻、いや嵐と表現すればいいだろうか。

 ブーメランは何もかもを巻き込んでゴブリンチャンピオンへ突撃する。


 そんなものを目にしたゴブリンチャンピオンは思わず逃げ出すけど時すでに遅し。

 そのまま風に飲まれ、巻き上げた石や木々に身体を打ちつけられ、ついでに矢が突き刺さる。


 当然立っていられず、ゴブリンチャンピオンは力なく倒れると同時に光の泡となって消えた。


「おお、すごい」


 思いもしないことに僕は感嘆する。

 まさかブーメランでゴブリンチャンピオンを倒せるなんて思わなかったよ。


 さて、これで奥に進める。

 そういえばゴブリンチャンピオンを支援していたゴブリンキングはどこに行ったんだろうか?


「クロノ、伏せて!」


 そんなことを考えていると聞き馴染みのある声が耳に飛び込んできた。

 咄嗟に屈むと頭の上をレイピアが通っていく。


「ウギャアァァァッ!」


 悲鳴が響く。

 目を向けるとそこにはゴブリンキングがおり、胸をレイピアで貫かれている姿があった。


 ゴブリンキングが光の泡となって消えていく。

 そんな光景を目にしながら僕は助けてくれたベネットに声をかけた。


「ありがと、ベネット。もう動いても大丈夫なの?」

「ちょっとよくなったかな。それにしても危なかったわね。ゴブリンキングが後ろから狙ってたわよ」

「そうだったんだ。助かったよ」


 いつの間にかゴブリンキングは僕の後ろへ回り込んだんだろうか?

 もしかしてそんなスキルを持っていたのかな。


 何にしてもベネットに助けられたよ。


「ねぇ、クロノ。このまま奥に行くの?」

「そうだけど? どうかした?」

「ううん、なんでもない。リリィ先生を探さないといけないし、行こっか」


 ベネットは何ごともなかったかのように笑う。

 ちょっと心配だ。ホントに大丈夫なのかな?


 そんなことを思いつつ、僕は復活したベネットと一緒に迷宮の奥へ向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る