第20話 初めてのギルド(1)

「そういうことだったんですね」


 三日目の朝はギルド一階の広間にて、令子と静香の二人に事情を説明することから始まった。

 広間には早出のギルド職員の他、習慣なのだろうか? まだクエスト受注業務の開始前であるにも関わらず、冒険者としか思えない面々の姿もある。


「目覚めたらベッドの上だもん。あたし、びっくりしちゃったわよ」

「二人ともぐっすり寝てたから、起こすに起こせなかったんすよ」


「……その気持ちは分かるけど、でも起こしても欲しかったな。男だけで美味しい料理を食べて」

「です!」

「え、あ……ごめん……」


 これが食い物の恨みと言う奴か。

 昨日の晩御飯を食いそびれた女二人の勢いに、剛大はたじたじになった。


「ああ。その点に関しては、俺たちも気が回らなかった。すまない。……パトリシアさんの話では、喫茶店とかはやっているところもあるらしいから、朝食はそこで食べよう」


「……そのパトリシアさんがこのギルド、のマスターという訳ね」


 恩人がマスターを務めているギルド、勇敢の赤の建物内で、騒ぎを起こす訳にはいかない。


 加えてこのギルドは『ブレイブファンタジア』の主人公が、籍を置いているギルドでもある。

 二つの意味で令子は、食い物の恨みで荒れる心を鎮めたようだ。


「そういうことだ。昨日はたまたま家に帰る途中で、公園にいた俺たちを見つけてくれたんだ」


 令子の質問に旬が答えた。


「……過ぎたことをアレコレ言っても仕方ないか。とにかく今は、何か食べたいわ。あたしは寝起きの時点でもう腹ペコよ」

「私もです。……それに筋肉痛が」

「……まあ、昨日もらったお金は、まだ残っているからな。四人の朝飯なら十分に足りる筈だ」


 旬が臨時で財布代わりにしているポケットの中には、千円札が六枚。硬貨が三百円分ある。昨日の晩御飯代から推測するに、四人分でもおつりが来る筈だ。


 パトリシアがいるのであれば、朝食を食べに行く前に、令子と静香をパトリシアに会わせた方がいいだろう。

 二人も早めに感謝の意を伝えておきたいだろうから。


「ギルド職員はちらほら出勤して来ているようだが……パトリシアさんはまだいないようだな」


 旬は人がまばらな広間を見渡すも、赤髪のギルドマスターの姿は無い。


「マスターはいつも、三十分後くらいに出勤されますよ」


 冒険者ギルド、勇敢の赤のマスターの名を口にしたからだろう。

 艷やかな黒髪を、ポニーテールに纏めた女性職員が、営業スマイルで旬に教えてくれた。

 その胸元には、勇敢が花言葉の一つである、赤いハイビスカスを象ったブローチがあった。


「ありがとう。……じゃあ先に朝食にするか。腹が鳴っている状態で、彼女に会うのもなんだしな」

「それに、腹が減っては戦は出来ませんからね」

「私もこの世界の野菜に興味あります」


 先程の職員の女性に、荷物は部屋に置いたままで良いか尋ねた。すると、良いですよとの答えが返ってきたので、旬は言葉に甘え、手ぶらで喫茶店に向かった。


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投稿者たちの英雄譚〜小説投稿サイト一位の世界へ転生する〜 世乃中ヒロ @bamboo0216

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