魔女の言い分
いぎたないみらい
絶命の塔にて
『あら。こんな所に客だなんて、あなた馬鹿なの?……その剣…。そう。廃棄物なのね。………………あの女について?いいけど、先に質問させて。あなた何故逃げなかったの?………………へえ?奴らは反省してないのね。まあ、わかっていたのだけれど。ふっ。ムダな犠牲だったわね、あの女。
………………ハイハイハイ。煩いわね。殺すわよ?……ふふふっ、ジョーダン。そんな顔しないで?で、なんだったかしら?
………………そうそう。あの女の話ね』
『あの女、フィルローズ・ジェンブレムって名前だったかしら?………………もう何万年も前の事だから、あまり憶えていないのよ。ごめん遊ばせ?だからさっさと帰りなさいな。………………あっそ。面白くないわね、あなた。揶揄いがいが無いわ。………………ハイハイハイ、わかったわよ。』
『あの女……、フィルはね。自分勝手で残忍で、酷くって。更には醜い女だったの。
………………ふふふっ。随分と美化されてるようだけど、本当よ?だってあのコ、イタズラが大好きだったんだもの。…あら。意味不明って顔をしてるわね。まあいいわ。あのコが聖女になったのは、8歳のときだったかしらね。今もあるでしょ?聖儀。………………え、無いの?あらあらあらあら。そうなのね?失くなってしまったのね?あの頃の女の子達にとっては、憧れで夢のような儀式だったのに。各国から王子様が集まってくるから、誰もが玉の輿を狙ってたのよねー。』
『でね。そこであのコが選ばれたのよ。不思議よね。周囲の人々をよく困らせてた人間が、よ?神様って自分のタイプで聖女を決めてるのかしら。まあそんな感じだから、聖女になる夢を持った他の女の子達に嫉妬されてね?何をするか分かったものじゃないから、護衛として付いて行ったの。………………魔女だって入れるわよ?聖院は誰も拒まない場所だもの。………………違うわよ。フィルが報復に何をするか分からないから付いて行ったの』
『フィルが選ばれて2週間後だったわ。フィルに神託が降り、私は破滅の魔女になった。この呼び名、嫌いなのよねー。もっとかっこよくて美しくて品のある呼び名、なかったのかしら。………………いいえ?これはフィルが付けたのよ。お陰で彼女達以外だーーれも本名で呼んでくれなくなったわ。
………………そうそう。合ってるわよ。勇者達は皆、私とフィルの幼馴染みなのよ。なのに破滅の魔女の討伐を命じられたのよ?おかしくない?………………そんなことしないわよ。滅魔は赤子のときから使えていたのよ?そんな人格だったら、神託が降りる前に世界を滅ぼすわよ』
『で、それからはあなた達の知っている"勇者物語"と大体一緒。ただフィル達は私を殺すんじゃなく、神を探す旅をしていたの。目的が違うから、バレないようにたまに戦ったりしたわ。こーーっそりうちに招いて、一緒にご飯を食べたりもしたわね。…でも、それも16のときに終わった。………………そうよ。…あなたは、それを誰がしたか分かる?
………………違うわね。神よ。神が、世界の破壊を始めたの。本っ当に意味が分からないわよね。神は私達人間を廃棄物に定めたの』
『………………私はね?神を滅ぼしたのよ。それが転じて、そう記された。………………ふふっ。そんな事言っちゃダメよ?殺されるわ。……そのときの戦いで、フィルは命を落とした。………………違うわ。勇者…、レオと結婚したのは、見た目だけフィルによく似た誰かさんよ。そうして美談に仕上げたの。
…フィルは死に際に、私に呪いをかけたわ。不老不死の、祝福という名の、呪いを。
………………馬鹿言わないで。死にたくても死ねないのよ?痛みを感じないわけじゃないのよ?毒を飲めば、ずっと苦しまなければならない。………呪いでしかないでしょう、こんなもの』
『………………フィルの事なんて忘れる訳ないじゃない。私はフィルの双子よ?
………………そりゃそうよ。救世の聖女と破滅の魔女が家族だなんて、書かれるわけないでしょ。………私はフィルと一緒に生きたかった。一緒に死にたかった。でもフィルはそんなのお構い無しに、この呪いをかけた。酷いでしょ?仮にも聖女が、人の気持ちを考えないの。悪魔みたいよね』
『あのコは……、フィルは本当に謙虚で、自分勝手で、優しくて、残忍で、美しくて、醜くって、この世の者ではないくらいに酷い女なのよ』
『ねえ。聞こえてる?お前達。言っておくけど、この子は死なせないから。………………いいから黙ってなさい。…ねえ。私が気付かないとでも思ったの?最初っから知ってたわよ?相っっ変わらずクソヤロウ共みたいで安心したわ。ーーーー永遠に滅びるがいい』
ブチッッ
「…………チッ」
ドンドンドン!!
「失礼します!早急にお耳に入れて戴きたいことがっっ………!!」
「…………申せ」
「はっ!!破滅の魔女の元に送った男ですが、突如として生命反応が途絶えました!」
「監視はしていないのかい?」
「当然しておりました!ですが監視係からの連絡によると、突如として消えた、と…」
「……男の家族はどうしたのですか?」
「しょ、少々お待ち下さいっ!………………っは、はあぁぁぁ!!!???っそれは本当か!!??………………そうか……、わかった。……あ、あの」
「早く話せ。俺たちは気が短いんだ」
「っっ……はっ!!!男の家族も同様に、監視係の目の前で突如として消えたとの事です!!!!」
「…………そうか。戻ってよい」
「っはっっ!!!!」
どたどたどたどた………
「おい。これで何回目だ?」
「500年に1度ですので、42回目ですね」
「まだアタシ達を赦してないんだねぇ」
「ハッ。そりゃそうだろ。アイツの唯一を奪ったんだからな」
「ヒヒッ。ガンコだね。アタシ達の残りの寿命は短いってのに」
「クス…。永遠に滅びる、だなんて可笑しい言い方ですよね」
「で、どうするんだ?レオ」
「またコロし合うのかい?」
「腕は衰えていませんよ?」
「…………どうせ負けるだろう。アレは不滅の、破滅の魔女なのだから。…………この身が滅びるまで、フィルローズの血肉と共に潜んでいればいい」
魔女の言い分 いぎたないみらい @praraika
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