第5話朝チュン事後ですわ

翌朝。寝室からメイドを呼ぶベルを鳴らすと、足音もなくやってきたメイドがドアをノックした。薄暗い部屋から、俺がぬっと顔だけ出すと、メイド、マーサは少し驚いたように目を瞬いた。

「え、奥様?旦那様は……」

てっきり、旦那様に呼びつけられたと思ったらしい。俺は、シーっと自分の口元に指を立てた。

「まだ眠ってらっしゃるの。昨晩は激しかったから、お疲れなのかもしれないわね……体を拭くお湯と布をもらえるかしら?」

マーサは頬を少し赤らめると、小さく頷き、すぐにお湯を持ってきた。

お礼を言ってマーサを追い返した後で、俺は扉を閉めた。お湯をそっとベッドサイドへ運ぶ。ベッドの上では、体中キスマークだらけの旦那様が、目を真っ赤に腫れさせて眠っていた。

完全にやってしまった……。

ホスト感覚で酒を飲みすぎてしまったのが原因だったかもしれない。

処女が初夜からあんな積極的なのはどう考えてもおかしいだろ!!不貞を疑われても無理ないぞ!!

俺はなんて言って誤魔化そうか考えながら、お湯で濡らした布を絞った。まだ眠っている旦那様の体を、贖罪の気持ちで清めていると、旦那様が目を覚ました。

「う……」

「だ、旦那様、お体は大丈夫ですか?」

「はっ……令嬢!!」

旦那様はガバリと起き上がると、恥ずかしそうに毛布をたぐり寄せて自分の体を隠した。その際に、自分の体にキスマークが散りばめられていることに気づき、赤い顔をして黙り込む。俺は冷や汗をかいた。

「だ、旦那様、これはその、えーっと」

「……すまない、令嬢」

「え?」

なんて言って謝ろうと考えていた矢先、先に謝られてしまったので、俺が驚くと、旦那様は両手で顔を覆った。

「本来ならば俺が先だってすべきことを、全て令嬢にさせてしまった……。こんな情けない男、嫌気がさしただろう」

「え?え?」

「もし離婚を望むならば俺は……」

「ちょ、ちょっとお待ちください!」

俺は慌てて、旦那様の手を取って縋りついた。

「私、旦那様のことを情けないだなんて思っておりません!むしろ、可愛らしい方だと思っていますわ!」

「か、かわいらしい……俺がか?」

生まれて初めて言われたとばかりに困惑し、眉を顰める旦那様に、俺は余計なことを言ったかなと思いつつ、言葉を続けた。

「そ、それに、こういった行為に、男も女もありませんわ!得意な方がすればいいだけなのです!適材適所ですわ!」

「得意……令嬢は、得意なのか?」

「す、全て書物から得た知識ですけど〜!」

おほほと笑って見せると、旦那様も気が抜けたのか、ふっと微笑んだ。

「そうか……適材適所か」

なんとか誤魔化せたかな?そう思った時、扉が控えめにノックされた。

「旦那様、奥様、ご朝食の準備が整いましたが……その……如何されますか?」

控えめな執事の声に、俺と旦那様は慌てて身支度を整えた。


こうして、無事に初夜を終えることができた俺たちだったが、初夜からあまりに熱い一夜を過ごしたせいか、メイドたちの間では、俺たちの知らぬ間に噂が広がっていた。

「昨晩はベッドの軋む音が部屋の外まで響いてたとか……ご主人様は、奥様のことをよっぽど気に入られたみたいね〜」

「お二人のベッドを整えに行ったんだけど、まるで獣が争った後みたいに荒れ果ててたらしいわよ!流石、ご主人様よね!」

そしてそんな噂がメイドの口から、屋敷の外にまで伝わり、獣のような黒騎士団の団長を骨抜きにした令嬢は一体どんな人物なのかと王宮にまで噂が広まっていくのだが、俺はそんなことも知らずにのほほんと貴族生活をエンジョイしていたのであった。

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元ホスト転生令嬢が童貞騎士団長を骨抜きにしますヨイショ!! たくみこ @takumiko

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