第61話 【スプラトゥーン】 9月8日 フェス!!!


 * * * *


この2回のライブ回は、この話のために編集した動画をBGMに、物語を読むという、初めての試みになります。

少々読みにくいですが、ご容赦ください。


小説にあるタイムコードと動画のタイムコードが同期しながら、物語が進みます。

もしよろしければ、動画を聴きながらお楽しみください。


なお、動画は限定リンク、かつ広告収入は無い設定にしています。この小説をご存知の方だけがご覧になれます。

QRコードをタップしても動画に飛ぶことができます。

https://youtu.be/7tee1CjgmLY


(下記本文の < >内は、↑動画内のタイムコード)


—————————



》吹奏楽祭 矢作北高校吹奏楽部

“BAD MOON〜ハイカラミックス・モダン” 後編


<4:47>


 結愛の音色が艶やかに舞う!


『ヤ〜ラ〜ヤ〜ラ〜ラヤ〜ラ〜ヤ〜ラ♪』


 ドラムのフィル!


 キレのあるリズムを刻み、前奏を一気に盛り上げる!

 美音のハイトーンファンファーレ!


<4:59>


 祭りの開始の合図!

 金管のユニゾン部隊のメロディー倍音!


 天井から、そしてホリゾント幕(舞台後ろの白い幕)にも、黄色・青と交互に照明が照らされ、華やかにステージが彩られる。


 スカ・バッキング隊が下がっていき、代わりに、トランペット・トロンボーンの列にいた朱里と妃那が、左右それぞれの外側から、扇子を持ち、手拍子を打ちながら舞台前方に出てくる。


「また、何か始まるんだ!」


 中学生三人組は、そういう期待とともに、他の観客たちと一緒に手拍子を合わせ始めていく。


 扇子を持って踊るダンサー二人に目が向く中、

 三人の前に、青いTシャツの有純がクラリネットを持って、現れる———。

 


(ダンス振付参考動画↓)

https://www.youtube.com/watch?v=Hz3gRWJ3YeE


 * * メンバー紹介 * *


・ソロ1

 クラリネット 桐谷有純

 笑顔でチームを照らす、最強で最高の『残念』部長


・ソロ2

 アルトサックス 柵木結愛

 矢北の「強さ」と「華」を象徴する戦姫


・ソロ3(中間部後)

 フルート 河合水都

 風に怯える「小鳥」から、嵐を操る「大鷲」へ


・ソロ4(中間部後)

 ユーフォニアム 狩野未来

 繊細な心を豪快な笑顔で包む、矢北の「太陽」


・ダンサー

 トランペット 富田朱里

 誰よりも楽しみ、みんなを笑わせる、自称・お祭り隊長


 トロンボーン 畔柳妃那

 スプラXP3000 、「遊び心」を「技術」で形にするクリエイター


↓合奏体型

https://45034.mitemin.net/i1053773/


 * * * *


<5:13>


『タララ♪ タララ♪———』


 中低音とマリンバの伴奏に合わせ、有純が唄い上げるソロを響かせる。

 一言一言に”言葉“があるようなフレージング。


 ワンフレーズ吹いて、嬉しそうにピョンコピョンコと一回転。


 もう一度ワンフレーズを唄うと、バリサクとトロンボーンの激しい“合いの手”が入り———


 メンバーの手拍子と共に、黄色のTシャツを着た結愛がサックスを構える!


<5:32>


『イーヤンラ〜〜ラ〜〜♪———』


 さっきまでのソロとは違う、ヘビ使いの笛のようなサウンド。

 コミカルにも聴こえるその音に、三人組は度肝を抜かされる。


「え、全然音が違う?」

「さっきまで、バリバリだったよね!?」

「こんな、全体の演出に合わせて、変えられるもの?」


 チャルメラの進化版のように吹きこなす結愛に合わせ、有純が加わった三人がダンスを踊る。


 有純が中学生三人組にも笑顔を向けると、三人は驚きを忘れ、舞台の上で起こる期待感に再び身を委ねた。


<5:47>


 全体のタメから、サビへ!


『ア〜レ〜 ブ〜ラトレ〜ソ〜レ〜オ♪———』


 二人が、後ろの大ユニゾンと一緒に吹きながら、左右のダンサーと踊る!

 四人に降り注ぐ、華やかなライトの演出。


「わあ……」と、それを見た何人もの観客が、声を漏らす。


 前にいる四人を、全力の演奏でサポートするバック全体。

 観客に向けられる熱情が、目で見える。


 “三象限の音楽“———

 それが体現されるステージの中心で、陰となりながら、陽は嬉しそうに指揮を振る。


 その笑顔を見る、顧問のアンドー。


「本当に……なんて子だ。」


 そう、呟く。


 …………


 この曲の合奏練習が始まった頃、石上くんは元気が無いように見えた。

 東海大会が終わった直後、学校も休んでいた。

 「全国大会に行きたいです」———

 彼の全国への情熱は、それは凄いものだった。

 だから相当、全国に行けなかったことはこたえたのだろう。


 そんな、何をそんなに卑下するものか。

 彼は、何をそんなに落ち込むことか。

 ずっと勝てなかった矢北を、東海大会の金賞に導いたこと。

 それがどれだけ、凄いことか。


 私が赴任して四年間、できなかったこと———。

 誰一人、地区大会すらも、勝たせてあげられなかった。

 授業の合間にもなんとか勉強を重ねたけれど、形にしてあげられなかった。


 桐谷さん、前の代の川北さん。

 彼女のたちの涙に、上っ面な慰め言葉しか、言えなかった。

 生徒は、そんな私の熱意を知ってるからこそ、信頼してくれていた。

 でもそれに、応えられていない。


 そんな中———彼が現れた。


「石上 陽です。指揮者希望です。よろしくお願いします。」


 ニュースで見た、コンクールで優勝した指揮者。

 そんな彼が、なぜここに? 矢北に?

 しかし、彼から滲み出るオーラは何よりも説得力があり、

 試しに彼に持ってもらったタクトからは、音楽の息吹が生まれ出した。


 “彼に、やってもらおう”———


 半分、逃げのような気持ちで。

 彼に任せることになった。


 それからは、彼や桐谷さんたちが動きやすいように。

 渉外も含めて、バックアップに努めた。

 みんなにも、笑顔が増えた。

 それで報われるなら、それでいい———


 と思っていた、東海大会から数日経った、あの日。


「先生、ちょっとよろしいですか?」


 石上くんから、呼び出しを受けた。

 なんだろう? と思ってついて行くと、会議室の隣の準備室に入るなり、彼が頭を下げてきた。


「先生、だらしない姿を見せてしまって、すみませんでした。」


 え? 何を言っているんだ、この子は?


「いや、どうしてそんなことを言うんだい?」


「先生がどんな想いで僕にこのタクトをくださったかを忘れて、ヘコたれていました。」


「いや、そんな……。」


「先生がずっと今まで、ハデ北の音楽を守ろうとされてきたかを、少なからず知っています。川北先輩、桐谷先輩、柵木先輩、みなさん先生のことが大好きです。」


 ……。


「先生、新入部員の挨拶の時、おっしゃっていましたよね。『聴いてくれる人に、音楽の楽しさが伝わることを大切にしている、素晴らしい二年生たちです』、と。」


 え……。


「それを守り、その音楽を築かれてきた先生の価値観を、もっと大切にしたいと思いました。僕も、ハデ北の音楽が本当に大好きだからです。

 ……どうかこれからも、このタクトをお借りしてもよろしいでしょうか。先生が大切にされてきたものを、みんなでさらに大きくしたいと思います。どうか、よろしくお願いします。」


 深く礼をする、彼。

 ———そこで、私が何を言ったかは覚えていないけれど……


 今日、目の前で起こっていることは、“ハデ北の音楽”。


 まさに、聴いてくれる会場全体に、音楽の楽しさが、伝わっている。


『ア〜レ〜 ブ〜ラトレ〜ソ〜レ〜オ♪———』


 富田さん、桐谷さん、柵木さん、畔柳さん。

 みんな、嬉しそうに笑っている。

 今の二年生が、嬉しそうに。

 涙ではなく、本当に心から嬉しそうに、会場全体を巻き込んで。


 中心にいる石上くんも、四人の後ろで、笑いながら指揮を振っている。

 あのタクトを持って。


 目の前が、滲む。


「……アッハッハ!」


 ———最高の日だなぁ!!


 …………


<6:17>


 サビが終わり、左右のダンサー二人が一旦、中央に集まってくる。

 中間部の手拍子がなる中、踊る二人。


(妃那、楽しーね!)

(とーぜん。)

(みんな、喜んでるね!)

(ふっふ。)


 一言二言交わした二人が再び左右に戻ろうとすると、

 その入れ替わりのように、水都と未来が舞台の前にやってくる。


 合計六人になった前列の中、水都が一歩、前に出る。


 他の五人が軽く足を開いたまま下を向き、照明が暗転———

 青いTシャツを着た水都に、スポットライトが当たる。


<6:31>


『ティララ♪ ティララ♪———』


 フルートなのに、尺八のような力強さ。

 グロッケンの優しい伴奏に合わせ、水都の音がホールを揺らす。

 沖縄民謡を模した、フックのあるメロディーラインを、時に巻き舌を入れながら唄い上げる。


「カワイちゃん……!」


 その姿に戦慄する、安城ヶ丘女子の淑。

 東海大会から、わずか二週間。


 “また、2つも3つもレベルが上がっている”。

 成長速度が、もはや自分を引き離していることを自覚する。と同時に———


 その演奏の幻想さから、自分も夜月に照らされているような錯覚に溶け込んでしまう。


 動き柔らかく、謡曲を唄うように演奏する水都。


 そこに、『タンタン!』とビートが刻まれ、バッキングが一斉に入ってくる。

 続けて揺れながらソロを吹く水都に合わせ、他の五人は扇子を持って舞い踊る。


 作り出されるその光景に観客が身体を揺らす中、


 黄色のTシャツを着た未来が一歩、———前に出る。


<7:01>


『パラナラナラ トッタッタ〜♪———』


 スポットライトが、未来に。

 肩幅に足を開いた構えから、未来がユーフォのベルを向ける。


 ユーフォにありがちな脇役ではなく、主役。

 真っ直ぐて透き通る音が会場を吹き抜ける、“未来マジック”。

 グロッケンまりあマリンバ孝弘の合いの手が、その魔法を引き立てる。


「ユーフォって、こんな音出せるの……?」

「すごい……。」

「“七色のユーフォ”……。」


 中学生三人組が、光景に目を見張る。

 二階席からは、紗希の小さな紅葉の手が前に伸び、興奮して何かを家族に伝えている。


 ドラムとともに一斉にバッキングが入ると、そのユーフォは一転、激しいを入れた奏法に。

 巻き舌、ピッチベンドアップ・ダウン。

 中低音楽器経験者から見たら異端に見えるその演奏が、バッキングのオリエンタルな雰囲気にマッチアップする。

 他の五人の踊りが、それをさらに引き立てる。


「うわ……。」


 その七色の音色に唸る、ユーフォ奏者の椋。

 三人が顔を見合わせた瞬間———


 全照明が点火する!


<7:30>


 ライトが一斉について、華やかになる舞台!


 『ヤ〜〜ラララヤ〜ラ〜♪———』


 六人は楽器を吹かず、右、左、右、右、と手を揺らしながら、声で歌う。

 会場一人一人に視線を向け、「一緒に踊ろう!」と笑顔でメッセージを送る。

 それにつられ、手を揺らし始める、たくさんの観客。

 陽も指揮台の上で手を揺らし、てんくてんく、と踊っている。


 さらに、陽がグイグイと上に合図を送り、ステージ上のみんなを立たせる!


 全楽器がスタンダップ!

 右、左、右、右…と、立ってベルを揺らしながら演奏する!


 ———吹奏楽で作られる、歌と踊りの世界。

 照明効果も合わさって作られた、“三象限”の愛の世界。

 光に包まれ、フィナーレの情景を醸し出している世界。


 それを見上げる観客は、思う。


“ああ、もうすぐ終わっちゃうんだ———“

“もっと、聴いていたいな———“


 奏や真司たちが支える中音。

 ドラムとエレキは口を嬉しそうに開けて見合い、

 グロッケンとマリンバは、笑顔で左右にステップを踏む。


 美音や大翔たちのキレのある金管バッキングが切り込むと———


 陽が、指揮台を降りて、こっちを向く!


「え!?」


<8:00>


『ヤーラー ヤーララヤーラーヤーラ! ヤーラー ヤーラーラヤーラーラー!』


 ステージの全員が、楽器を置いて歌い出す!

 前の六人に、加わる陽!

 七人は、舞台下のみんなにも歌うように盛り立てる!


『ヤーラー ヤーララヤーラーヤーラ! ヤーラー ヤーラーラヤーラーラー!』


 立っているステージ上のメンバーも、思い思いのポーズで歌う!

 四月から続けているブレストレーニングで、その音圧たるや!

 「吹奏楽のステージなのに」という驚きを吹き飛ばし、観客から歌声が出始める!


 ……パーカッションが入り、ステージ上は全員が歌いながら手拍子!

 それに応じるように、会場の歌に手拍子も加わる!


「アッハッハ!」


 嬉しそうに手拍子を叩いて笑う、大佐渡!

 それに対して、「何やってんの! 一緒に歌う!!」と言うように、ポーズで促す陽!


 小中学生、親子、二階席、福祉スペースの全員合唱!

 ステージもホールも、完全に一つになる!


 ———七人の中で笑う陽。

 大佐渡には、心からの笑みが浮かんでいるように見える。


「あいつ、やっと“子供”に戻れたなあ!」


 その言葉に、樫本も頷く。


 ……ドラムのフィル!

せーのヤーラ!』


<8:30>


 全合奏が始まる!

 前の七人が、歌いながら息を合わせて踊る!

 手を拡げて一回転!

 嬉しそうに一瞬目を合わせる、陽と水都!


『ヤーラーラ ヤーラーラーーーー!』


 ダンサー七人が両手を頭上に高く上げ、曲の終わりを告げる!

 後奏を盛り上げる、全員合奏!


 陽は再び指揮台に登り、残る六人もそれぞれの楽器でメロディーを吹き上げる!


 ドラムのタムに合わせ、中央に集まる六人!

 最後のファンファーレ!


 一瞬の間の後、

 放射状に手を拡げて、全員のシャウト!


一緒にレッツシング吹おうトゥギャザー!!」



「「「……ワアアアアアアーーーッッ!!!」」」


 会場から起こる、大拍手。


 それに応えるように、七人は手を繋ぎ、大きく礼をする。


 さらに大きくなる歓声。


 陽は立っているステージ上の全員にも合図を出し、全員で礼をする。


 “カーテンコール”みたいだ———


 普通、吹奏楽の拍手では起こらない光景。

 この愛のある空間では、それが自然だった。


 中学生三人組も、拍手を止めない。


「……決めた。私、矢作北に行く。」

「えっ!?」


 驚いて椋が振り向く。


「……凄いだけじゃない。しっかり基礎ができてる。ここにいたら成長できる。楽しいし。全国行けないんだったら、私が連れてく。」


「ちー……。」


「……ちーが行くなら、しおゴンも。」


「よし。みんなで行くよ? 内申、足りてるでしょ?」


「ちー……!」


 嬉しそうに笑う、椋。

 


 会場はまだ、拍手が鳴り止まない。


 福祉スペースからロクさんが、光るステージを眩しそうに見上げている。

 そして……口を開く。


「夢が……あるなぁ〜……!」

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転生指揮者は吹奏楽で奇跡を起こす 〜愛知県立矢作北高校吹奏楽部のキセキ〜 水菜 @Ariel365

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