第19章 帰還

 ライラさんが倒れた。

 自分だって怪我しているのに、無理して足の折れた俺に肩を貸して進んだからだ。


「とりあえず安全なところ……ぐぅっ」


 痛い。今の俺には、意識を失った人間を持ち上げることは不可能に近い。


 ライラさんが目覚めるまで待つしかないだろう。

 目覚めるまで生きていられたら、の話だが。


「……死んでも守るしかないでしょ」


 最悪、俺は死んでもいい。

 呪いを解呪とはいかずとも進展はあった。後はランドさん辺りと調査すればきっと、呪いは解くことができるはず。


 だからその未来を、希望を、守るために俺は、ここで散る。


「とはいえ、何も無いなら俺も休んでおこう」


 体力を温存して、もしもに備えよう。


 〜◯◎◉◎◯〜

 数十分。彼女は起きない。

 幸い倒れたのが休憩中だったため、道のど真ん中で堂々座りをする羽目にならなかったのが、せめてもの救いか。

 折れた足を見る。アナテマにやられた、その証。

 俺が弱かったせいで、こんなことになっている。

 守ると誓った相手に、守られている。


「はぁぁぁぁ……情けない……」

「んぅ……」


 ぼそっと呟いた一言に反応するようにライラさんが唸る。


「れ……ん……れん……」

「!ライラさん、目覚め――」

「いいこ……いいこ……」


 頭を優しく撫でられる。目覚めたのかと思い、顔を見ても、声をかけても反応は無い。

 ただずっと、優しく撫でられている。


「がんばった……ね。こわかったね……」

「……!これって……」


 初めて会ったあの時の言葉――!


 撫でる手は俺を離さず、遂には片方の腕で抱きしめてきた。

 優しく、優しく、壊れ物でも扱うかの如く、俺に触れる。


 ライラさんは今、幼いレン・ファンドを見ている。


 俺が抵抗するはずもなく、大人しくライラさんの胸の中に収まった。


「だいじょうぶ……だよ。お姉さんが……まもったげるからね」

「……」


 少し……眠くなってきた。


 〜◯◎◉◎◯〜

「――い――おい!」


「起きろ!レン・ファンド!!」


「!?」


 跳ね起きる。寝てしまっていた。状況は?ライラさんは?


「何がっ……!ぐぅっ!!」


 無理に立ったせいで足が痛い。


「バカお前、足折れてんだから無理すンな!」

「……ランド……さん?」


 目の前いたのは、ランドさんだった。


「なんで……こんな所に……?」

「今回の定期討伐ダンジョンフローの影響だよ。二度と地上にモンスターを出さねェための、迷宮の警備」

「でも、ランドさん。前会った時に用事があるって……」

「祭りで木材が足りなかったンだ。それを取り入ってただけだ」


 とんだ幸運だ。起きたばかりで頭が覚めていないが、とにかく助かったのは事実だろう。


 ランドさんは数名で来ており、合流出来次第俺達を連れて地上に戻るそうだ。


「……そうだ。ライラさんは!?」

「大丈夫だ。息は安定してる。時間経てば起きるだろ」


 心底安心した。良かった。何も無かった。


「……すまん」

「何がですか?」

「コイツも意識失っちまって、お前も足が折れてる。俺も着いていけばよかった」

「タラレバですよ。……こうして助けてくれただけで、俺はもう……」


 それに、アレアナテマの存在は完全にイレギュラーだった。

 命あるだけでも、最大の功績だと思う。


 本当に、よかった。


 その後、ランドさんのパーティメンバーが合流し、俺達は無事地上まで辿り着くことが出来た。

 ライラさんは地上に出ると目が覚め、これといった異常も無いようだった。

 俺も折れた足は病院で無事くっつき、特に後遺症も残らず、完全復活を果たした。


 今回の探索で、俺は力不足を大いに感じざるを得なかった。

 もっと、強くならないと。


 かくして、俺とライラさんの第一迷宮解呪探査は終了した。


 第19章

 帰還

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ライラ・ブレイヴィは剣が握れない ゆきさん @azuazu1101

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