第40話
ピシウスの腕が空を掴みメアリーだけが消えた。
しかしピシウスは消えない。
むしろ先ほどまで感じていた消えゆく自分の存在感さえはっきりしてしまっている。
「そう…そうか…メアリー」
ピシウスの頬を冷たい涙が伝った。
「幸せになってね…僕は長い長い時間のほんの一瞬の瞬きの美しさがこんなに幸せだと思わなかった…」
彼はその空を掻いた腕を自分の体に巻き付け。
両腕に爪を立て震えながら更に涙を流した。
「君の居ないこれからの長い長い闇がこんなに寂しいなんて…。
きっと僕が消えることが出来る日は…来ない…だって幸せをもう僕は知っているから。
そして失ったから…」
体を丸め先程までメアリーが居た温もりの残っているシーツを掴んでその温もりが無くなるまで抱きしめた…。
ジレンマのパラドックス 橋本 真一(ハシモト マヒト) @AmielAdler
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